突然ショートショート「毒ガスを撒かれる前」
今、私はレストランで店主に縛り付けられて、そして目の前に毒ガスを撒かれようとしている。
隣では、一緒にエビカツ載せカレーを食べようとしていた後輩の莉奈が、悲しそうな目をしている。
私だって悲しい。カレーを食べにきただけの、ただの一般人がどうしてこんな目にあうのか。
「や、やめてください!」私はダメ元で声をあげる。
「うるさい!敬愛するモンド様の秘密を知られたからには生かしておけん。我々だけに留めておくのだ」
何度も声をあげたが、こうなっておしまいだ。
「何を言っても無駄だ。お前らの運命は『死』それだけなのだから」
さらに店主は続けた。
「これから秘密兵器を取ってくる。これがあればお前らは灰になって、姿形も全て消えるさ」
クックックと笑いながら、店主は隠し扉を通って消えていった。
隠し扉が閉じた瞬間、莉奈の目付きが変わった。
それまではか弱い羊のようだったのが、鋭く獲物を狙う狼のような目付きに。
次の瞬間、莉奈はなんと体を縛り付けていたロープを力技でぶち破った。
「え!?」私が驚いていると、今度は私の分のロープも引きちぎってくれた。
「ありがとう…」
「しっ!来ました!」
店主が戻ってきていた。ロープから解放された私たちに驚いている様子だった。
「待たせたな、行くぞ!」店主の目は本気だった。ロープから解放されたあたりで手遅れだと思っていた。
その時、莉奈は高らかに声をあげた。
「ちょっと待った!話はこの私を倒してからです」
「な、何だと」店主の目は本気のままだった。
莉奈はカバンから特撮で使われるようなベルトを取りだし、ワンピースの上から装着した。
「変身!」
そしてずっしりと構えた姿勢のまま、下から現れた魔方陣をくぐると、彼女の全身が黒いタイツ姿に変化した。
魔方陣は上まで上がった後、再び下へ降りていき、彼女にゴツゴツしたアーマーを着せていった。
「なっ…おまえは何者だ!?」
「通りすがりの魔法少女、年齢は21歳です」
そう言って頭についているバイザーを下ろした彼女の姿は、魔法少女というよりも特撮のヒーローそのものだ。
そして21歳なのに『魔法少女』を名乗る彼女の根性はなんなのだろうか。
そして店主が敬愛するとかいう『モンド様』もさっぱりわからない。
とにかく今はこの謎に満ちた空間から抜け出したいが、どうなるだろうか。
それは何もわからない。
(完)(964文字)
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