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記憶について学ぶ 前編"記憶はただの倉庫じゃない"

カリフォルニア大学デービス校のダイナミックメモリラボのディレクターであり、人間の記憶と制御の神経基盤の研究者であるPhD.チャラン・ランガナトの著書"Why We Remember"は、"脳の記憶と忘却についてのメカニズム"と、"その知識を活用する方法"が解説されています。

私たちは、欲しいものを記憶することができ、それを「覚えておくべきだ」と信じる傾向がありますが、実際には"忘れるように設計されている"とランガナト氏は述べています。

記憶はただの倉庫じゃない

ランガナト氏が説明するように、私たちの記憶は単なる倉庫ではなさそうです。記憶は倉庫よりもはるかに流動的で、過去の経験、現在起こっていること、予測する未来のイメージなどによって影響を受けます。

基本的に脳は、つねに五感から入力される情報を受けて反応しているため、より重要で斬新な状況や、より望んでいる経験を優先するのです。だからこそ、現在重要だと思っている仕事などに追われて、パートナーが大切にしている記念日を忘れるのです。

ランガナト氏は、「記憶のメカニズムと意味を理解すれば、もっと記憶を上手に使うことができる」と主張しています。

そして、記憶は人生のほぼすべての面で重要な役割を果たしており、あなたが何を追求し、どこに住むか、何かを信じている原因、どのように子供を育てるか、どんな友達や知り合いが欲しいかなど、"人生を変化させる原動力にもなる"と述べています。

海馬のエピソード記憶

人間にとって記憶は重要であるため、脳の色々な部分が記憶の作成に関与しています。とくに海馬と前頭前野は、思い出や経験をリサーチし、未来の予測に関与します。

海馬は記憶の主要な部分で、いつ、どこで、何が起こったかなどの"エピソード記憶"を司っているため、私たちを時間や空間において方向付ける役割を持っています。

例えば、海馬にダメージを受けるアルツハイマー病などになると、迷子になったり、混乱をしてしまいます。

海馬の状態がわるくなくても、友達の家に泊めてもらって翌日の朝起きると、一瞬混乱を感じることがあるかもしれません。それとアルツハイマー病との違いは、海馬からエピソード記憶を素早く引き出して、「なんで友達の家にいるのか?」を思い出すことができるところにあります。

エピソード記憶はタイムトラベル

良い悪いは別として、エピソード記憶を思い出す行為は、ある種の"タイムトラベル"です。なぜなら、それによって人生の様々な経験、感情、当時の考えなどを再体験することができるからです。(未来の記憶を作成することも可能です。)

また、エピソード記憶は、前後関係や背景、周辺情報によって想起することがあるため、記憶と同じような場所、状況などがトリガーとなる可能性があります。

エピソード記憶のトリガーについて例えるなら、豪華な料理を出されて"うんともすんとも"言わなかった人が、子供時代によく食卓に上がっていた料理を出されてエピソード記憶を思い出し、涙しながら喜ぶようなイメージです。

音楽もエピソード記憶のトリガーになります。ちなみにその人が10代~成人期までに聴いていたものが強力です。

エピソード記憶の注意点

エピソード記憶は、現在の感情と相互作用があるため、楽しいエピソード記憶は楽しい感情を呼び起こし、楽しい感情は楽しいエピソード記憶を想起させます。

もちろん、ネガティブなエピソード記憶と感情も同様に相互作用があることを覚えておきましょう。

心を操縦する高等技術として、エピソード記憶の"感情の部分だけを取り出す"方法などがありますが、基本的に悲しいエピソード記憶を再体験するよりも、楽しいエピソード記憶を利用して現在の感情をコントロールするほうが健全と言えるでしょう。

以下の研究では、人間は肯定的な記憶に焦点を当てると、気分と自己感覚に良いことが起こることを示唆しています。例えば、「あの時の私は素晴らしかった」という記憶を思い出すと、「その通り、現在も素晴らしい」というイメージが湧くのです。

つづく

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