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未来に先回りする思考法

職業柄教育関連の本を読むことが多いのですが、偏った人間にならないために様々な知識の習得に努めています。中でもテクノロジー関連の知識は、今後生徒や自分の子供たちが生きていく世界を理解する上で非常に重要であり、しっかり理解したいと考えています。

本書はメタップスという会社の経営者で、「お金2.0」というベストセラー(だいぶ前に読みました)の著者でもある佐藤航陽氏が2015年に上梓した本になります。

まずはあらすじを紹介します。(AMAZONより引用)

「実際に空を飛ぶ機械が、数学者と機械工の協力と不断の努力によって発明されるまでには、百万年から一万年かかるだろう」
ニューヨークタイムズにこのような社説が載ったのは、ライト兄弟が人類で初めて空を飛ぶわずか数週間前のことでした。
今に生きる私たちも、この話を笑うことはできないでしょう。
iPhoneが発売されたとき
「赤外線がないなんて流行らない」「おサイフケータイが使えないなんて不便」
と多くの人が言っていたことを、
Facebookが日本に進出したとき、
「実名性のSNSは日本人の気質には合わないので普及しない」
と多くの「知識人」が言っていたことを、私たちは都合よく忘れています。
人間は本来、未来を見誤るものなのです。
しかし、そんな中でもごくわずかな人は驚くほどの先見性を発揮して大きな成果を上げています。その違いは人々の「思考法」にあります。

上記のように我々はことごとく未来の予測を見誤ります。

上記の飛行機やFacebook、iPhoneだけでなく、ある野心的な人々が宇宙船の開発に取り掛かると宣言したときも99.9%の人々が「宇宙船など夢のまた夢だ」と言って信じなかったそうです。

では、「世界が変化するパターン」を見抜いている0.1%の人たちはどのような人たちなのでしょうか。

スティーブ・ジョブスやマーク・ザッカーバーグなどの0.1%の人たちは総じてテクノロジーに造詣が深く、経済・人の感情などの複数の要素を把握し、社会が変化するパターンを見抜く力に長けていたと言われています。それは言い換えると、「社会の変化を点ではなく一本の線として考える」ことができる力に他なりません。

例えば、我々の社会はここ数十年でAI(人工知能)を軸に劇的に変化していくとされていますが、それらを点ではなく、下記のように線として結びつけて考えることが肝要だということです。

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そしてこのようにテクノロジーを語るときに、「すべては『必要性』から始まる」ということを忘れてはいけません。

世の中の製品・仕組み・サービスはすべて何かしらの必要性に迫られて誕生しています。しかし、時間が経つとその時代に最も効率的だと思われた選択肢も、実態の合わない時代遅れなものになります。

「必要性」の面白い例として、イスラエルが挙げられています。人口800万人の小国ですが、実はナスダックに上場する企業数はアメリカに次いで多いというイノベーション大国です。なぜ継続的に多くのイノベーションが起こるのかというと、中東の社会情勢にからくる「必要性」ゆえだと現地のベンチャーキャピタリストは言っています。政府・民間・大学・軍など全員が協力して収入を確保し、アメリカをはじめとする諸外国への影響力を保ち続けなければ国として危機に陥ってしまうからなのです。

これはシンガポールにも同じことが言えますし、アメリカは様々な人種と文化が入り混じった国なので、競争で国を興すアプローチを取った結果イノベーション王国となりました。(その分格差も拡大しましたが・・・)また、現在の日本にイノベーションが起きにくいのは「必要性」に駆られていないからだと筆者は述べています。(納得)

また、私が本書の中で興味を持ったのは「国民国家VS多国籍企業」という項目でした。

国家も企業も世の中の「必要性」を満たすために誕生した組織ですが、当然民間企業の方が国家に比べてコストと効率の面で優れているので、高い競争力を持っています。

これまで多くの企業の活動範囲は国内に限られてきましたが、グローバリゼーションが起こり、インターネットの爆発的普及によって、経済的な意味においては国境はほぼなくなりました。(残念ながら日本は一部の企業を除きこの潮流に乗り遅れ、一時期は世界を席巻していた経済的優位性は今や見る影もありません)

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GAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)のような超グローバル企業は世界経済を牛耳るようになりましたが、これらの企業の浸食に対抗措置を取る国も出てきました。フランスは「反AMAZON法」と呼ばれるような法律を可決したり、ドイツにおいてもGoogleの独占的な地位を憂う声が議会で上がり、分割するべきだという動きがあったりします。わが日本もGoogleの独占を阻止する戦略の策定を急いでいるそうです。(2021年現在何も変わっていないことを考えると、うまくいっているとは到底思えないのですが・・・)

GAFAのような多国籍企業から自国の経済を守りながら、同時に国内の企業を成長させ、経済発展を遂げたのが中国です。ご存知のように、中国ではGoogleやAmazon、Facebookなどのサービスは使うことができません。その代わりBATH(Baidu, Alibaba, Tencent, Huawei)のような巨大企業が中国のITインフラを支え、経済発展に大きく貢献しているのです。以前はその閉鎖的な政策に国際的に冷ややかな目を向けられていましたが、GAFAのようなグローバル企業が各国の経済を骨抜きにしている今、各国政府は中国と同様の政策を取り始めているのです。

そしてグローバル化された世界においてはGoogleやAmazonはすでに民間企業の枠を超えたとてつもない大きな存在になっています。

その結果、国家と企業はそれぞれ得意な領域で協力関係を築きつつあります。国家は権力を、企業は活動領域の拡張性と機動性を持っているので、それぞれ補完しあえば、その脅威はさらに増します。

つまり、企業と国家の隔たりは以前よりもなくなっており、「Google・Amazon=アメリカ」という図式ができているため、各国はこれらの企業への対策を講じているのです。(事実2014年のアメリカの中間選挙で最も政治献金をしていた企業はGoogleでした。国家と企業の融合は進んでいると言えます)

世界は今アメリカと中国の二強時代になり、この覇権争いはこの先も長く続きそうです。上述の通り、それは国家間の争いだけでなく、各国の企業のグローバルな戦略も大いに関係しています。例えば、GoogleやFacebookは、今インターネットが使えない国の人々に無料でWifiを提供しようと様々な投資をしています。本来公共性の高い価値(ここではインフラ整備)を提供するのは政府の役割でしたが、ここにも企業が侵食しつつあります。

そして、もう1点面白いと思ったのが、Googleの「20%ルール」についてです。20%ルールとは「社員は社内で過ごす時間の内、20%を自分の担当外の業務の分野に使わなくてはならない」というルールです。ちなみにこれは任意ではなく、全員に課せられる義務です。

上のサイトにも書かれていますが、Googleはこの20%ルールを社員の福利厚生のために定めているわけではなく、自社のリスクヘッジのために実施しているとされています。

これはGoogleの経営陣ですら常に正しい意思決定を行うことが不可能なほど世界が不確実性に溢れており、会社の決定が間違っていたとしても、数万人いる社員が20%の時間を使って作り出したプロジェクトの中に正しい選択肢があれば、企業が持続できるという仮定で出来上がった制度なのです。

なんだかもう見ている世界が違いすぎて、勉強になるというよりは少し怖くなりました。我々一般市民がGoogleやAppleの恩恵をあずかっているその裏で、Globalizationという名のAmericanizationに加担しており、ひいてはそのことが自国の経済の衰退を助長している可能性を改めて考えなければいけないと思いました。

本書では最後に「五分五分で決断する」ことについて書かれています。これは冒頭で書いたように、「点ではなく線で考える」こととつながっており、自分自身のその時の認識ではなく、進化のパターンから導き出される未来に目を向けるという意味です。つまり、リアルタイムの状況を見ると自分も含めてそうは思えないけれど、原理を突き詰めていくと必ずそうなるだろうという未来にこそ、投資をする必要があるということです。

私は経営者でもビジネスマンでもないので、これらの視点は必ずしも必要ではないかもしれません。しかし、人を育てる教育者として、このような考え方を子どもたちに提示し、彼らがVUCAの時代を生き抜くヒントになればいいと思いました。

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最後までお読みいただきありがとうございました。


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