フィルムたそ_190212_0020

暗い森の子供達

 前を見ても、後ろを見ても、大変恐ろしいのです。恐ろしくてたまらない。しかしそれがなぜ恐ろしいのかを深く考えることこそが最も恐ろしい。だから既のところで足を止めるのでした。するとどうでしょう。どこにも行けなくなってしまったのです。私は森の中に立っています。いつからこの森の中にいるのかはもうわからなくなってしまいました。
 ある日、1人の少女が森へ足を踏み入れてきました。少女と私は気づけば2人でいるようになりました。私たちはよく、森の中で綺麗なものを探す遊びをしました。初めはお互いに綺麗なものを集めてそれらを鑑賞しあうだけでした。しかし、いつしかその遊びは綺麗なものを楽しむ遊びではなく、どちらの方が綺麗なものを探せるか、というものに変わっていきました。点数をつけたわけではありません。互いに罵倒しあったわけでもありません。私たちの間には、なんとなく尖った空気が流れていました。私は争いを嫌う人間でした。自分が傷つくのが大嫌いだからです。彼女も自ら進んで争いに参加する人間ではありませんでした。しかし私たちは争っていたのです。傷つける言葉など使いません。勝ちという概念も負けという概念もはっきりしていません。それでも私たちの間には、互いに隠し通さなければならない「戦略」のようなものがありました。それは「何も言わない」というものでした。
 ある日の夕暮れ、彼女は集めた綺麗な宝物をたくさん風呂敷に詰めて、「森を出て行きます。街に宝物を買ってくれると言う方を見つけました。」と言いました。私は、ああ。やはりそうなのか。どこかでわかっていたことだ。と自分に言い聞かせました。同時にヘドロのような醜い感情がこみ上げてきたのです。私が探したものの方が、価値がつくはずだ。と。しかし私は森を出たいと思えませんでした。いや、思いたくないのかもしれません。前を見れば街へと続く道があります。後ろは暗い、暗い森が広がっています。森は美しい場所です。動物たちは優しさに満ち溢れています。私を必要としてくれます。私はわからないのです。彼女の道が正しく見えてしまうのです。わからないまま、ただ立ち止まるのでした。

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