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[ART短編] 「悪」趣味

「他人の不幸は蜜の味」などと申しますが、
自分の趣味もおそらく「蜜」の味。
本当のジブンを愉しんでいたのなら…

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 その日も「画像生成のAI」をつかって駄画を描いておりました。ご存知のように「生成AI」には「言葉」を使います。画家に絵を発注するように自分の望みを「言葉」で伝えるのです。
 その際「言葉」が拙ければ自分の思うような絵にはなりません。相手はAIなので描き直させることは簡単ですが、肝心の「言葉」がつかめていないときには、やってもやっても埒が明きません。
 その日のわたしはまさにそれでした。肝心の「言葉」を落ち着いて探せばよかったのですが、つい横着をして適当な「言葉」で間に合わせようとして時間を無為に費やしていました。「実験」を思いついたのは一種の逃避だったと思います。ところが怪我の功名というのでしょうか、いささかおもしろいことになったので、ご紹介させていただきます。

「実験」のやり方は簡単。過去の名画を生成AIに読み込ませて、どんなアレンジを加えれば、より良くなるのか。やることはそれだけ。
「より良く」というのはもちろん主観です。普通に考えれば巨匠の感覚にかなうわけがありません。しかし、やってみればおわかりいただけると思いますが、微妙に違う作品を何枚も見比べていると「オリジナルよりもとこっちのほうが好みだ」と。そんな気持ちが芽生えてくるのでございます。
 この時「自分好みの画像」にはどんな「言葉」を足したのか(引いたのか)。そこに注目いたします。

 申し上げにくいことですが、わたしが「自分好み画像」にするために使った言葉は「悪魔」でした。弁解するようですが、最初からそのような不穏な言葉を思いついたわけではありません。百に届きそうなくらいさまざまな言葉を試した挙句のことです。
 あともう一つ理由がありまして、それには向き合っていた名画にも原因がありました。『モナリザ』なんですが、あれは単なる女性の肖像画などではなく、究極のオカルト画なのでございます。
 ちなみに「オカルト」とは神秘の意味で、狂信的な宗教団体を指す「カルト」とは別でございます。念のため。
「オカルト画」の場合、たとえ写実的な具象画に見えても、それは仮の姿。実景を写したものではありません。信仰上の教義をもとに綿密に構想された「真理」が映像化されたものなのです。
 よく「偶像崇拝」が戒められますが、それは「神や真理の擬人化」が人を惑わせるからに他なりません。「神や真理」の正しい表現方法は「記号や図形」なんだそうです。『モナリザ』が特別なのは「記号や図形」を意識させずに、しっかりと描かれているからなのだそうです。いうなれば宗教画の中の宗教画。
 そんなことを聞きかじっておりましたので、つい「神」から「悪魔」を連想してしまったという次第。

 さて、実験の結果でございますが、わたしは『モナリザ』に「悪魔」という言葉を「足した」のでしょうか? それとも「引いた」のでしょうか?

 オマエのことなんか、どうだっていい!

 これはこれは率直なツッコミありがとうございます。おっしゃる通りです。わたしの趣味を語ってもお耳汚しになるだけでした。

 はじめにお断りすべきでしたが、この実験を紹介させていただいたのは、ご自分でやってみられてはいかがかと。まことに僭越ながら、そう提案させていただきたかったからでございます。
 ご自身の心の奥を知ることは、決して無意味なことてばありますまい。

『モナリザ』にこだわる必要はありません。これはという名画に「悪魔」を「足した」り「引いた」りした絵を描かせてみて、どちらが自分好みなのか? それを比べてみるのです。
「悪魔」を「足した絵」が自分の好みだとなれば、あなた様の奥底にはそのような気分が潜んでいるやもしれません。この機会に内省されてみるのがよろしいかと。

 実験は応用することもできます。足したり引いたりする「言葉」に「怒り」や「悲しみ」を用いれば、その点に関しての抑圧された心理が読み取れそうです。
 平静を装ってはいるが心の奥底には「怒り」が渦巻いているとか、あるいは「泣けるものなら泣きたい」という気持ちなのか……。誰にだってありがちなことですが、傾向が顕著だと注意が必要です。

 むろん、こんな実験で本性がわかるとか、そんな大それたことを申し上げるつもりはございません。ほんのお遊びと思し召し下さい。
 とはいえ、雑誌の心理分析や占いのように不特定多数に向けたものとは違いますから、そこは一つ頭の片隅に置く価値はあるかと。

 最後に注意点を一つ。実験をされる場合には、周囲に人がいないことを確認されておかれたほうがよいでしょう。何しろ日頃、自分でも意識していないようなことですから、知った人は何というか知れたものではありません。

 アナタ、本心ではそんなことを思っていたの!
 アナタって、ほんと「悪」趣味ねえ……

 

これらの「微笑み」のいったいどこに「悪魔」が……


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