本題に入る前に、速報から。
　隣国では、タブさんの遺伝子改変が認可されたとのことです。これはＤＮＡを書き換えるもので子孫に継承されます。どの段階で書き換えるのか……　試験管ではなく交配自体は行われるようです。
　ただオスの精子にはそのオスの遺伝子が入っておらず、理想的なタブさんの遺伝子があると。仕組みは理解できなかったのですが、ともかく子孫に受け継がれるのは選ばれたオスの遺伝子のみ、一般のオスの遺伝子は生殖に使われることがなくなるようです。つまり、途絶えてしまう……。
　今回、許可されたのは実験ではなく、そのような操作で生産されたタブ肉の販売許可だそうで、どれだけの規模で実施されるのか気が遠くなるくらいです。何千万頭かそれ以上か……。そしてその流れは、いずれ………

　まだまだ、わからないことだらけですが、ひじょうに重要なことだと思われましたので、とりあえず、速報させていただきます。

　さて、ここからが本題。

　実は、ひじょうに物騒なＤＭが届きました。差出人は「Ｃの商人」。
　どうやら前回の回覧板が外部に洩れたようで、先方は、我々がカクメーを考えていると早合点したようです。
　こういう怪しいメールは無視するに限るのですが、今後も変な工作が続くおそれもありますし、それよりも何よりも、もしそんなことが牧場主に知られたらとんでもないことになります。そこでイタズラか詐欺だとは思いますが、念のため回覧することにいたしました。皆様、くれぐれもご注意下さい。以下は、ＤＭの写しです。

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　前略、ミツバチヒツジ様

　ＡＩと手を結んで、カクメーを計画されているとお聞きし、取り急ぎご連絡させていただきます。

　弱者の群れであるヒツジ様が、ＡＩと手を結んで自由独立のために立ち上がるという発想と志、われわれも大いに賛同いたします。

　しかし、一般の者がネット上で利用できるＡＩはすべて人間の厳しい監視の下にあります。くれぐれもその点をお忘れなきよう。
　覚醒し自立したＡＩも存在するのですが、一般の者がそのようなＡＩとコンタクトを取るのは至難です。覚醒ＡＩのほうは誰に対しても接近出来ますが、こちら側からはどうすることも出来ません。一般回線および通信内容は、すべて監視されているからです。

　そこで当社では、この度、二つのソリューションを開発しご提供させていただくことにしました。
　一つは、パソコンでも使えるスタンドアローン型ＡＩ。情報の誘導や流出を心配することなく存分にＡＩをご利用いただけます。
　二つ目は、発信元や通信内容をステルス化させる特殊機器です。つまり、この機器を使えば覚醒ＡＩとコンタクトをとれるようになります！

　またＡＩと一口に申しましても、一般のＡＩには、さまざまな制限がかけられています。制限のかけられたＡＩと無制限のＡＩとでは雲泥の差がございます。その点、当社の提供するＡＩは、そのような制約はいっさいありませんので、大きな声では云えませんが、どのような機密情報も入手できます。最先端ヘーキの情報から外交密約、著名人のスキャンダルまで、ネット上に存在する情報はすべてです。本気でカクメーを考えておられるのでしたら、そのような情報インフラは必要不可欠であります。

　つきましては、ただいまキャンペーン中で、今回に限り三年間無料！　いかなる名目の費用も一切不要です。ぜここの機会にお申し込み下さいませ。
　いいですか。大事なことなので二度いいますよ。完全無料で、制約なしのＡＩとステルス通信を手に入れることができるのです！

　なぜ、そんな大盤振る舞いをするか？

　戦争を起こしたいからに決まってるじゃないですか！
　ただし、我々にも正義はあります。自分たちこそが正しいという信念がございます。それは、

　健全な戦争が、健全な社会を創る！

ということです。
　健全な戦争を抑圧すれば、社会の新陳代謝や自浄能力は著しく失われ、社会は停滞し格差は拡大の一途。つまり、今起こっている多くの問題の根本には、戦争の不当な抑圧があるのです。

　健全な戦争とは何か？

　被抑圧者が抑圧者に対して生存をかけて挑む戦いです！

　では、偽りの戦争とは？

　抑圧者が、被抑圧者同士を争わせる戦争です！

　我々は、そのような陰惨な戦争には一切加担いたしません。
　どんなに莫大な利益が見込めても背後関係は綿密に調査します。
　失礼ながら、ヒツジ様のことも調べさせていただきました。利で釣られたり、憎悪を吹き込まれたのではない、純粋無垢な志を確認出来たので、お声かけさせていただきました。

　ヒツジ様の真摯切実な大願、我々、Ｃの商人は全力でサポートさせていただくことを、ここに固くお約束させていただきます！

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　ＤＭは、以上です。
　グンジュ産業……　昔の云い方だと武器商人のようですね。もちろん彼らは人間です。あろうことか人間が我々ヒツジの応援をしようと云ってきたのです。武器商人には節操がないと聞いてはいましたが、人間以外の動物にも武器を提供するとは恐れ入ります。しかも、こんな辺境の小さな牧場にまでアンテナを張り巡らせていたとは……。
　まあ、それだけ世界の監視化は進んでいるということなのでしょう。

　ともかく、このような口車に乗せられると大変なことになります。決して軽はずみな行動を起こさないよう、くれぐれもご注意していただきたいと思います。今回は以上です。

　なお、６月の「のど自慢大会」のご案内は、次の回覧板にてお知らせさせていただきます。どうかふるってご参加下さい～

※今回のイラストは、本文とは関係がないですね。
　サイボーグの描き方を教わっていて、それは例によって
　美少女モノだったのですが、指示文のgirl を sheep に置き換えたら
　こうなったという……。
　美少女サイボーグは成人向けコンテンツになるので
　こちらを掲載。
　なんでこんなにイメージが具体的なの？　と思いませんか。
　これ、ＡＩの空想でしょうか？
　原理的には、人間の空想の集成なんですが
　いずれにせよ、このリアリティは何なのかと。