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まだ?

家に帰ると22時をまわっていた。ゼミのメンバーと飲んでいたらこんな時間になってしまった。メイク落として風呂入って速攻で寝よう。そう思っていた矢先、電話がかかってきた。夜に電話をかけてくるアホは誰だと若干キレ気味になりつつ電話を取る。画面を見ると久しぶりに見る名前が書かれてあった。

もしもし

想像した声よりも低くて知らない人ではないかと疑ってしまったが、雰囲気は確実に本人だなと思い「うん、久しぶり」と話を続けた。

今から、会えない?
いいよ
じゃあ最寄り駅教えて
わかった

最寄り駅でまちあわせをすることになり、私は落ちかけのメイクと髪型を丁寧に直して家を出た。嬉しくて楽しくて不安で、仕方がなかった。


駅に着いてあたりを見渡すと以前会ったときと変わらないあいつがいた。

夜遅くにごめんね
いいよ、別に
なんか一緒に歩きたくなったんだよね。
いいよ、歩こう。

私たちは歩いた

高校卒業して以来だね
そうだね
結局どこの大学に行ったんだっけ?
バイトしてんの?
さっきの飲み会でさ、、、

こっちホームの数多すぎない?
私達の地元がド田舎すぎるんだよ
それは言えてる
楽しかったね、あの頃は
そうだね


どうでも言いようでよくない、他愛もないようで、これがないとどうしていいかわからないから話すしかないみたいな適当な話をした。

一緒に並んで歩く私とあなたの50センチの距離は
初々しさから生まれるものなのか
これ以上踏み込んでこないでというアピールなのか
知りたいと思う一方
悲しい気持ちになりたくないから聞けないでいる


高校の頃はお互い友だちとしてやってきた。たまに付き合ってんじゃないのとか言われたり、恋愛の邪魔してんじゃないのとか言われたりしたけど、私のなかであいつがいればそれで充分だった。たぶん、あっちもそう思ってる。恋人とかではなくて、友だちでよかった。生きる意味とか恋と愛の違いとか話せるだけでよかった。それだけでよかったから、それ以上は望まなかった。

このままずっとこの距離で
ふたりで歩いていたかった。

でも、もうそれは難しいみたい。
いつのまにか私の家の前まで来ていた。

これからどうする?
どうするって?
…なんか言うことは?
なんも。
そっか。
うん。
じゃあ。
じゃあ。

私は彼の歩く後ろ姿をずっと見ていた。
ずっとずっと、みていた。












なんてことを考えながら、私はメイクを落とす。電話なんてなりはしない。あいつからだなんて、なおさらだ。あいつの好みのメイクや髪型なんぞ私に知るすべはない。知る資格もない。


電話なんてしなくてもいいから
私のことを覚えておいてくれ
どうか、忘れないで。