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アアルトデザインファクトリー・イノベーション教育の一大拠点訪問記

#デザイン #イノベーション #教育

-17℃の寒空の下、フィンランドはヘルシンキ、アアルト大学のキャンパスへ赴いた。今回の訪問の目的は「ME310」や「PDP(Product Design Project)」といった世界的イノベーションプログラムを展開するアアルト・デザインファクトリーを訪ね、そのクリエイティブな環境をレポートするためだ。

イノベーション教育の最先端「アアルト・デザインファクトリー」

はじめに、アアルト・デザインファクトリーはアアルト大学のデザイン教育部門であり世界各国のデザイン教育機関が提携する「Design Factory Global Network」(デザインファクトリー・グローバルネットワーク)を創始した機関である。毎年100人を超える様々な分野の学生が国境を超え、分野を超えて企業と協働しながらイノベーティブな課題に取り組んでいる。

ちなみに京都工芸繊維大学のデザイン教育機関「Kyoto Design Lab.」は2018年からこのネットワークの一員であり、スタンフォード大学発のイノベーションプログラムME310を展開している日本唯一の教育機関でもある。

筆者はKyoto Design Labから15-16年にかけてME310に参加し、デザイン思考をもとにした、水上パーソナルロボットの開発を経験した。現在もスポンサー企業であるヤンマーと共に開発を行いつつ今年からはコーチとしてこのプログラムに関わっている。

「イノベーション」が教育される場所

フィンランドの偉大な建築家アアルトが設計した建物群を抜けて辿り着いたアアルト・デザインファクトリーはその名の通り、大きな煉瓦造りの倉庫のような建物である。

建物に入って真っ先に目にとまるのはインフォメーションデスクと沢山のテーブルである。デザインファクトリーの各セクションへつながるこのエントランスホールは週7日24時間解放され、誰でも自由に使える人々のクロスポイントとなっている。ホールの各コーナーにはミーティングルームが設置されていて、こちらも学生であれば自由に使っていいそうだ。エントランスホールの活気が初めて来た人々に歓迎の雰囲気を伝えている。

ホールの壁には過去のプロジェクトやスタートアップを興した修了生などのポスターが掲げられ、パーティの写真やデザインファクトリーのマニュフェストのダイアグラムなどがこの場所の文化や歴史を視覚的に伝えてくれる。過去のプロジェクトのプロトタイプなども多く設置され、いくつかは実際に動かして体験することもできた。

(ホールのロフト部分にあるミーティングスペース)

(ファクトリーには専用の金属、木材のワークショップと3Dプリンターなど各種デジタルファブリケーションの機器が揃っている。それぞれに専属の職員が付き、学生の支援をおこなっているそうだ。)

グローバルイノベーションプログラム「ME310」

さらに建物を奥に進むとME310の部屋が現れる。ME310とはスタンフォード大学発の9ヶ月間のイノベーションプログラムで、世界各国の学生が海外のパートナー大学とタッグを組み、コーポレート企業から出されたテーマに対して、デザイン思考を学びながらプロダクトやサービスを開発している。教室でもあり部室のようでもあるこの部屋には、修了生たちのプロトタイプやプログラム中に作成したペーパーロボットなどが並んでいる。プログラム期間中に学生は、この広いスペースを自由にレイアウトしアレンジして課題に取り組む。

デザインファクトリーには、このように大きくオープンなスペースがある一方で、ドアを閉めれば簡単にプライベートな空間にすることができるミーティングルームやロフトなどが併設されている。学生たちはチーム専用の場所を持つと同時に、建物全体に散在するさまざまな雰囲気や機能をもったミーティングスペースで、その時々の気分や目的にあったスペースをすぐに作れるようになっている。想像力や生産性を上げるための工夫のひとつだと感じた。

(学生が主に活動する部屋、毎週の講義などもここでおこなわれる。)

(ME310のネットワーク図と、プレゼンテーションのフィードバックに使いやすいオープンフレーズ集が飾ってある。)

(ME310では海外のパートナー大学の学生と1つのチームを作るので、パートナー大学のある都市の現地時間が分かるよう沢山の時計が設置してある。)

ファクトリーであり、社交場

アアルト・デザインファクトリーのもうひとつの面白いポイントはキッチンにある。キッチンは建物の中央あたりにあり、ここが建物内で唯一コーヒーを淹れることができる場所だそうだ。(そしてここのコーヒーがキャンパス内で最も安い!)これが結果的に人々が集まるもう1つのミーティングポイントとなり、別のプログラムの学生同士、生徒と教授など垣根を越えたカジュアルな会話が自然に生まれるそうである。

そしてキッチン横のダイニングには「Design Factory Global Network」(デザインファクトリー・グローバルネットワーク)を示すワールドマップとポルト、メルボルンのデザインファクトリーをリアルタイムでつなぐウェブカメラとディスプレイが設置されており、いつでもグローバルなつながりを意識できる工夫がしてある。

(「Design Factory Global Network」のワールドマップとウェブカメラ付きディスプレイ)

おおらかなクリエイティブコミュニティ

駆け足で紹介してきたが、スタートアップの祭典「Slush」をはじめイノベーションやスタートアップといった昨今のバズワードの中心地の1つであるヘルシンキ、そのムーブメントの重要な拠点の一つであるアアルト・デザインファクトリーには学生のクリエイティビティや生産性をサポートする工夫が多く見られた。充実した設備やオープンな空間はもちろんのこと、プログラムや立場の垣根を越えたコミュニケーションが自然に生まれ、それが文化になっていることがここの人々を1つのクリエイティブコミュニティとして結び付けている大きな要因であると感じた。そして文化や歴史を伝えるメディアが、初めてきた人にもこのコミュニティに歓迎されていることを伝えていることも特筆するべきである。

(デザインファクトリーのツアーの様子。訪問するといつでも案内をしてくれるそうだ。)

総括として、アアルト・デザインファクトリーはそこが世界中に広がるイノベーションネットワークの一端である事実と、その輪を拡げ発展させていく大きなムーブメントを興していく場所であるということを強く感じることのできる場所であった。こうした空間、文化、歴史がアアルト・デザインファクトリーとその学生たちの背中を今日も押しているに違いない。



もっと知りたい方は:
Aalto Design Factory
Kyoto Design Lab.
ME310

筆者:
Ryohei Nomura | 野村 涼平
Internship at Pentagram Design London
Wheebo! 開発チーム@ヤンマー
ME310/SUGAR 18-19 プログラムコーチ

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