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光と水 - 写真と考察。

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潮目

2019年8月

500人の人々が暮らす瀬戸内の小さな島、佐島の夕暮れに撮影した写真である。この島に住む人々、そして訪れる人々にとっての重要な交通手段である連絡船の、その日最後の便の去り際を捉えている

西に面したこの港では、夕暮れ時に太陽が対岸の島の背後に沈みゆくと同時にまるで異なる海流がぶつかる潮目のような表情が海面に現れる。行くもの来るものが交わる島の出入り口であるこの小さな港に日々起こる大小様々な変化を、この光の潮目は示唆しているように感じられる。

リズムと反復

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2018年8月

夏の京都、鴨川沿いを中心市街地に向けて西向きに収めた一枚である。

川岸に面した建物の共通要素としての瓦屋根の平側、そして床と呼ばれる仮設のテラスとその構造体のトラスの反復、さらには河岸に自然と互いに距離をとって座る人々がこの景にリズム感を与えている。それらを正面から立面的に見ることによって、その面的な種々のアクティビティを一度に見て感じることができるという構成が、この景の美しさの一要因である。

またそれらの反復もリズムも水面の反射においてはもう少し溶け合った、渾然としたテクスチャの連なりとなっているが、その渾然の中、床の上に灯された明かりが強調され、一層活気をますこのエリアの夜の訪れを示唆している。

光と肌理

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2019年11月

東京カテドラル聖マリア大聖堂の南側の巨大で縦長のスリットから大聖堂内に差し込む光を捉えた一枚。8枚の複合HPシェルが頂部で十字架型のトップライトを形成しており空間全体に柔らかなライトが落ちている。昼下がりの挙式の最中、わずかに南西に傾き始めた太陽光がスリットから差し込み、南東側のシェルに反射しその荒々しいコンクリートの肌理を鮮やかに映し出している。

また手前側に見える南西側のシェルと奥側に見える南東側のシェルの急峻な勾配と、それらが互いに支えあうことによって生まれる柔らかなシェルの鞍型曲面の緊張感とその折り重なりあいからは、その建築の構造的な力学がはっきりと視覚的に見て取れる。その柔らかな曲線を強調しているのは、シェル表面に残された目地であり、その規則正しいグリッドとコンクリートの肌理が共存していることで、そこからはなぜか母性的で生物的な優美さと荒々しさが同時に感じられる。


(全ての写真は野村 涼平によって撮影されました。)

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