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ハレンチは程々に

陸上自衛隊だったと言われると、なるほどわかるわー、という印象。背は高くないがガッチリ体型で、いつも苦虫を噛み潰したような表情をしている。

奥様を亡くされて数年、一人暮らしをしてきたが息子さんの勧めで入居された。まだまだ自立していて、自身だけで散歩や買い物にも出かける。書道が趣味で師範の腕前。

入居した頃は、書道の腕前を披露することに熱心だった。「一日一善」みたいな標語を半紙に書き、勝手に廊下や共有スペースに貼り付けていた。
初めはスタッフも入居者も褒めていた。周囲の反応が物足りなくなると、問題行動を見せるようになった。ちなみに認知症はない。

まず、コンビニでの万引き。店員さんから施設に連絡が入った。カミソリとお菓子を1点ずつ。初めてではなさそうな太々しい表情で「金を払う価値のない物を持ってきた。」と言い訳した。

息子さんに事情を伝えて、外出についてはしばらくは買い物禁止、散歩はOKという対応になった。
「もう、いたしません!」と元自衛官は言った。

買い物禁止は守られなかった。こっそりコンビニへ行き、買った物を隠しながら帰ってくる。お買い物はしない約束ですよね、と咎めても「もう、いたしません!」

そうこうしていると、本人の居室から共有スペースの植木鉢や浴室タオル、トイレットペーパーが見つかった。
他の入居者のオヤツを食べて、更に自分のも食べているところも見つかった。
また息子さんが呼ばれる。本人は「もう、いたしません!」

そしてついに人的被害が出た。隣室の女性の部屋に押し入ったのだ。
本人は女性の部屋に入った事は認めたが、話をしただけだ、と言う。女性は無理矢理に入ってきて恐ろしかったと訴えた。

普段から入居者の女性の肩に触ったり、「愛してるよ。」と声をかけたりする姿は目撃されていた。
施設長から「他人の体に許可なく触れてはいけません。」「今後、他人の部屋に入るような事があったら退居してもらう。」と告げられた。
「もう、いたしません!」と言う元自衛官に「今までも、注意させて頂きましたが、何度もこの様な事があると…」詰め寄る施設長に「何度も謝っているでしょう!なぜ終わった事をまた持ち出すんだ!」と逆ギレした。

施設によって退居になる基準はあるだろう。ちょっとずつ問題は起こすが、うちの基準では退居させる決め手までにはならないと言う、入居した方を退居させるのはなかなか難しいと言うお話。

今日は雨。
元自衛官は、職員玄関から傘をパクって今日も散歩へ向かった。

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