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忘れられない話[ラブホテルからの伝言]

思い返すと色んな事がありました。
まずひとつ目は...

数年前のホーム長は、40代男性、よく言えばディーン・フジオカ風の優男(やさおとこ)。人柄は悪くないのだろうが、毎朝、細身のスーツ、サラサラヘアのツーブロックでキメて、スタバのコーヒーを片手に出社してくるような方だった。

ソフトな対応が得意で、ご高齢の女性からの人気は高かった。そして、本気で惚れ込んでしまった80代の入居女性がいた。

その女性はフランス語を操る知的な面と、理不尽な要求を強気で突きつけてくるような激しい気性を持ち合わせている方だった。時々真っ赤なリップを塗って、どう?と自ら褒めてもらいにくるタイプ。

毎日、何度も事務所までホーム長に会いに行き、手紙やお菓子を渡して、積極的にアプローチを続けていた。
ホーム長はのらりくらりと対応し、上手くいなしているつもりだったと思う。
ただ、女性の方はホーム長が他の女性と会話するだけでメラメラと嫉妬していたし、はっきりしない態度に対してはイラ立ちを募らせていた。

ある日、事件が起こる。

女性が人知れずホームから抜け出し、近所のラブホテルに入り、そこからホテルの従業員にホームに電話をさせて「ホーム長に迎えに来させろ。じゃないと帰らない。」と交渉してきたのだ。

ホームのスタッフ全員が唖然とした事は言うまでもない。
とりあえずホーム長自らが迎えに行くことはせず、ホテルの方に「ご迷惑をおかけして申し訳ありません、自身で戻るように伝えてください。」と伝えた。

しかし小一時間経っても帰って来ない。ホテルにもご迷惑なので、結局ホーム長と相談員で迎えに行き、車椅子に乗せて戻ってきた。
満足気な表情の女性。ホーム長が迎えに行った事で満足したのか、周囲の人を振り回してスッキリしたのか、全く悪びれる様子はなかった。

その後もしばらくは事務所に通っていたが、ホーム長が別のホームへ転勤になってからは、別の男性ケアスタッフにご執心となった。
強い、と思う。生きる力、自分の思いを伝える力がすごい。

多くの方は遠慮がちに生活していて、人に迷惑をかけたくない、と考えている。いわゆる一般的な日本人の感覚だろう。

善悪の問題ではなく、感心してしまう。私も強くありたいとは思うが、迷惑はかけたくない笑
そんな事を考えさせられる思い出である。

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