Change the weight(チェンジ ザ ウエイト)

今までの 私なら この『扉』を開閉出来なかった。

七海は そう 実感している。

「どうして 分かってくれないの!」

そんな独り善がりの発言は 蛍汰だけではなく 七海自身にさえ 刃を向けた。

傷つけてしまった『ダブルハーツ』は その傷を 癒せずにいた。

あの日から 蛍汰とは 連絡をとれなかった。

いや とりたくなかった。

『謝る』事が『敗北』な気がして。

素直になって 謝罪すれば 次に進めるのに。

七海は 自分の心臓を 何度も叩いては 枕に顔を埋める。

かれこれ 1週間が 経とうとしていた。

(このままじゃ…ダメだよな…)

冷静になればなるほど『答え』は明確になっていく。

でも。

どうしても。

その重厚な 銀行のVIPルームのような『扉』を開ける 勇気が 持てずにいた。

「いいから 一度 話したい。」

蛍汰は 開こうとしてくれている。

あとは 七海だけなのだ。

『蛍汰に 謝りたい。』

七海の指は 蛍汰に繋がる 道筋を辿った。

「…ごめん。」

「何がだよ?」

優しく包み込むような 蛍汰の声に 七海は 涙を覚えた。

「…ごめん。」

自ら滲み出した 雫の束が 七海の声を 妨害した。

「やっと…声 聞けた。」

激流は 増すばかりで。

一緒に 想いも零れてしまいそうで。

蛍汰の気持ちが 七海を 優しく 叩いた。

「ずっと…言いたかった。」

「うん。」

「恐かったの…また 傷つけるんじゃないかって…」

「うん。」

「このまま 終わりなのかなって…そう思って。」

「うん。」

蛍汰は 全てを受け止めてくれた。

七海には もう それ以上がなかった。

しばらくの沈黙は 蛍汰が 七海の言葉を待つサイン。

「いいんだよ 七海。…一緒に 傷ついていこう。 これからも。」

「うん。」

あれだけ 重かったはずの『扉』は 小指でつつけば 開いてしまうほどに 軽量化された。

1人じゃ 開けられない『扉』だって 二人なら 開けられる。

これから先に どんな『ウエイト』の『扉』があったとしても まずは ぶつかってから 考えればいい。

きっと 開かない『扉』は ないから。

今の『私達』なら この『扉』を 開閉することは 容易い。

二人は そう 実感している。

※このnoteは あたすのフォロワーである『百瀬七海』様こと『ななみん』の提供で お送りしております。

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