スカイウォーカーの夜明け 脳内補完の道

(『スターウォーズ スカイウォーカーの夜明け』公開直後2019年末にFacebookのNoteに記した文章の転載)

 公開日前後に立て続けに2回EP9「スカイウォーカーの夜明け」を観て、怒りと悲しみを感じてしまった。もうダークサイドに堕ちてしまいそうなレベルだったわけだが。しかし、そもそもスターウォーズという作品、行き当たりばったりにストーリーを進めて矛盾点だらけで、後になって苦しいつじつま合わせというところも多々あって、それがなんとなくおおらかに許せてしまうのが特徴でもある。また、結局矛盾点が解決されないまま、ファンが何とか脳内補完して落ち着かせるしかない部分というのも少なからず。その脳内補完の過程が、それなりに楽しい作品でもある。

 そこで今回ワタシも、一番やって欲しくなかったプロットに対して、脳内補完機能を作動させることにした。そして何をやってるときも、このことで頭がいっぱいになった。そう、年末から、みんなが正月気分にひたっている時期、頭の中ではこの脳内補完作業フル稼働だった。そこで考え至った脳内補完項目は以下のとおり。

●レイの出自
 レイの出自がパルパティーン(ダース・シディアス)の孫という事になると、シリーズ全体がパルパティーン一家とスカイウォーカー一族の争いという、小規模な貴族同士の戦いの様相を呈し、ストーリー全体が小さくなる。ここがいやだった。レイは、やはりアナキンと同じように特別な生まれた「選ばれた者」である必要もあるのではないかと思った。
 しかしそういえば、アナキンはダース・プレイガスかダース・シディアスのダークサイドの実験の影響によって生まれたとされている。いわば、ダークサイドの落とし子だ。レイも、何かしらダークサイドの実験の影響によって生まれてきたと考えられないか。パルパティーン(ダース・シディアス)は、自分の子ども夫婦(おそらくフォースの能力は無い)に、夫婦が望まないような所作(実験?)を施し、無理矢理フォースの能力を持つ者(フォース・センシティブ)を出産させた。そこで強い反感を抱いた夫婦はジャクーに逃れ、娘をパルパティーンの意のままにしてなるものかと抵抗していたのではないか。子ども夫婦を、フォース・センシティブを生み出すための道具としてしか扱っていなかったとなると、夫婦の逃亡の理由も説明はつく。そして、アナキンもレイも同様の高い能力を持ったフォース・センシティブであったということは、腑に落ちる。こうやって見ると、パルパティーン家とスカイウォーカー家の抗争という見方よりも、ダークサイドから生み出された能力者それぞれの葛藤という面が強くなり、小さな貴族間抗争という構図は遠くに退く。

●パルパティーンの復活
 レイの出自については、さほどこだわりはなかったのだが、一番やって欲しくなかったのがパルパティーン(ダース・シディアス)の復活だった。そもそも死んだ人間の復活は、シリーズ中のタブーだった。それに、ダース・ベイダーが自らの命と引き替えに奈落に突き落とした皇帝が復活するというのは、EP6「ジェダイの帰還」の結末を台無しにする行いだ。また、クローン技術で復活できるのなら、EP6からEP9の30年ほどの間、パルパティーンはいったい何をしていたのか?復活できるなら、すぐに復活を宣言し、スノークやファースト・オーダーなる組織を使わずに、さっさと玉座に戻って反乱軍の掃討作戦を継続すれば良いのではないか。復活したにせよ、なぜこのような時間的間隔が開いたのか、スノークやファースト・オーダーを用いるなどの遠回しな手法を使ったのかが説明できなければならない。
 さてここからが脳内補完。よく考えてみれば、ジェダイ側では、死んだ人間がフォース・ゴーストとして登場するのは、既存のルール上問題ない。一方、ダークサイド側には、こういったフォース・ゴーストの「秘技」は見受けられなかったが、同様の死を克服する何かを、シス側も持っていてもおかしくはない。つまり、EP9「スカイウォーカーの夜明け」の冒頭で登場したパルパティーン(ダース・シディアス)は、シスの秘技によるダークサイドのフォース・ゴーストだったのではないか。ダークサイドのフォース・ゴーストと、ダークサイエンスが生みだした肉体を用いた傀儡の合わせ技で、復活したと見えたパルパティーン(ダース・シディアス)は、フォース・ゴーストで操られている操り人形で、完全なる蘇りではなかった。描写的にも、復活したダース・シディアスは弱々しく、会話をするのが精一杯で、自ら移動することも出来ず、クレーンに吊られて歩いているような風を見せているだけに過ぎなかった。スノークも、この傀儡の肉体を作る際に生み出された実験体の一つだったのかもしれない。クローン技術による復活ではなったことは間違いない。スターウォーズワールドでは、高いクローン技術は存在するが、完全に同一人格の人間を作ることはできない。ジャンゴ・フェットとボバ・フェットが、別人格であるのを見れば、そこははっきりしている。パルパティーン(ダース・シディアス)も、クローンを作っただけでは、やはり完全復活できないのである。もし出来るのであれば、既に朽ちたような肉体を作る必要は無く、若い肉体を準備するはずだ。つまり、EP9「スカイウォーカーの夜明け」で復活したシディアスの肉体は、単純なクローン・コピーでは無いということだ。同一人格の肉体が甦らなければ、パルパティーン(ダース・シディアス)としては意味が無い。そこで彼は、シスの信奉者たちに、フォース・ゴーストとなった自らが操れる肉体を作らせたが、それが思ったより難航し数十年の歳月を必要とした。完全復活は無理かも、という場面もあったので、スノークを使うという戦略も採られたということではないだろうか。そして、どの時点かで、シディアスは、ある程度思い通りに動かせる傀儡の肉体を手に入れた。しかしそれは、相応に老衰した肉体を再現した傀儡でなければ上手くいかなかった。そして、その肉体も極めて脆いものでしかなかった。そこで考えた。この傀儡を使って出来ることは何か?憎しみを抱かせたレイによって、この肉体を殺させ、レイをダークサイドの女帝とすることは可能だ。つまり、シディアスは、どんなに上手くいってもゴーストで操っているだけの肉体、限定的・見せかけ的に延命しているだけの復活状態には見切りを付け、殺されることと引き替えに、レイをダークサイドに引き込むしか、自分に出来ることはないと気づいた。
 EP6「ジェダイの帰還」では、シディアスがやたらに自分を殺すよう、ルークを挑発するシーンが出てくる。これはあくまで、ルークの憎悪を引き起こすための行動で、自分が死ぬことは全く考えていなかったように見えたが。ひょっとして、万一ルークに一刀両断されても、相手がシスになれば、何らかの形で自らの意志がシスとなった相手に乗り移る技があったのかもしれない。いや、そんな技は無いかもしれないが、そういう信仰のようなものがシスにはあったのかもしれない。
 しかし、ダース・シディアスは、思いがけない復活を遂げる。シディアスが操れる肉体は、老衰していなければならないという前提がついていた。そうしないと、生きているように操れる傀儡としては機能しないのだろう。ところが、レイとベンのフォースを利用すると、その限界値が変わった。比較的若い肉体でも操れるようになり、傀儡そのものも若返った。反乱軍の艦艇を、全て制御不能にするほどの力を発揮できるようになった。しかしこれで完全復活したかに見えるが、しょせんはレイとベンのフォースを利用して得られた効果なので、結局はこの二人の力が失われれば、遅かれ早かれ朽ちゆく肉体に戻る運命だったのではないか。
 このように考えると、死者の蘇りがタブーな世界で、結局は見せかけの範囲内でダース・シディアスの復活は推移しており、タブーを完全に破壊したわけでもないのかもしれない。

 以上のように、受け入れられないプロットに対して、何とか脳内補完を施し、年明けに、再度「スカイウォーカーの夜明け」に臨んだのであった。


(このnoto発表時点で、公式小説でダース・シディアスの復活についての説明は為されていますが、それもいまひとつしっくりこないところがあり、やはり何らかの脳内補完が必要だと考えています。)

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