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海外寄付者インタビュー②:寄付集めをする過程(家庭)が育む子どもの生きる力

オーストラリアに来て、1年3か月が経ちました。ここまでnote上で様々なオーストラリア特有の寄付やファンドレイジングの取り組みを紹介してきましたが、個々人の寄付体験や印象に残ったエピソードもぜひ知りたいところ。

本記事では、オーストラリア在住28年目になる日本人リップパパさんに伺った寄付体験をご紹介します。


現在、メルボルンがあるビクトリア州の教育機関に勤められているリップパパさんは、お子さんが2人いらっしゃり、子育て世代から関心も向けられている「旅育(たびいく)」の考え方での子育てアプローチされています。2019年には、子ども達をはじめ家族全員で一緒にペルーの山岳地帯の小学校にトイレを設置する活動をされました。ちなみに、現地ニーズの把握や寄付先を決めることから、お子さん達と3年がかりでのプランニングだったそうで、トイレ設置に関する諸費用を集められたそうです。

小学生の時の原体験

静岡で生まれ育ったリップパパさんは、母子家庭だったことも相まって、大学までは経済的に裕福な家庭環境ではなかったと言います。
小学生の時に、母親は静岡のキリスト教系の病院で働いていて、住み込みだったためご自身はその病院から学校に通っていたそうです。そして、ある日、マザー・テレサがその病院を訪れて、直接お話しをする機会があったそうです。当時は英語が分からなかったものの、自分の目を見つめながら話しかけてきたマザー・テレサから感じて潜在意識に残っていたものが、現在のご自身の考え方にも影響を与えているかもしれないと仰っています。

子ども達の成長に大切な無形資産

近年、旅先での様々な体験を通じて、子どもの育ちや学びを刺激する「旅育」が色々なメディアで取り上げられるようになり、子育て世代から関心を向けられているようです。

リップパパさんは、「旅育」という言葉こそ知らなかったものの、2人のお子さんを育てるにあたって大切にしているのは「自分自身で考えたり決めたりして行動する『経験』や、それによる『思い出』などの『無形資産』」であると語ります。

普段の生活において買うパンを子ども達自身に決めさせることから、旅行の際には交通手段や泊まるホテルなどを子ども達に決めさせたり、計画を立てるところからさせるアプローチを取られています。

リップパパさんの旅育の中で特に象徴的なご経験が、2019年にペルーの小学校にトイレを設置するプロジェクトを子ども達主導で3年がかりで企画し、長期で家族で旅されてきたことです。

準備から計画実行までの全工程を子ども達が主体的に考える旅育

元々はネパールに行く予定だったところ、当時発生した大地震の影響を踏まえて、行き先を変更することに。
最終的に、行ったことがなくて言葉が分からない国から候補を絞っていき、ペルーに決めたそうです。

その後は、SNSなどを通じて現地の人とコミュニケーションを重ねながら、行き先を決めていき、アンデス山脈の中にある街・クスコにトイレの無い小学校があることを知り、そこにトイレを寄付することに決めたと言います。

※この写真はイメージです

それから、トイレ設置の費用を寄付で集めることに。
最初は、飲食を売った利益を寄付することから始めたとのこと。
50セントのソーセージを買って、焼いて1ドルで販売するところから、下記の記事でも紹介しているようなソーセージ・シズルにして利益を得られる値段で販売していきました。

しかしながら、肉体労働での利益に限界を感じた子ども達は、次に「何かいいものが当たるくじ」を思いつき、上記の記事の紹介事例の一つでもあるラッフルチケット(商品付きのチャリティくじ)にチャレンジ。
お子さん達それぞれの学校で1枚1000円で販売して、クラスメイト達が買ってくれた結果、30万円の収益が集まったそうです。

ちなみに、景品にはお子さん達のアイディアで当時最新の10万円のiPhone。良い景品を用意することで、大勢がラッフルチケットを購入してくれました。しかし、自己資金で景品を調達する分、収益から差し引かれてしまうことから、ラッフルを再び行う時には、地元の企業と交渉して景品として提供してもらってきたそうです。

こうした活動で寄付を集め、最終的には85万円ほどが集まったそうです。使途としては、全額をトイレの設置代金に使うのではなく、資材の調達費や運搬費、現地で雇う職人への人件費などにも充てたとのこと。
人によっては、どんぶり勘定になってしまいかねないところを、支出額を具体的に考えてファンドレイズしたことに、情報収集から計画づくりや実行までの一連のプロセスを聞いているだけでも、お子さん達にとって良い経験(機会)となっていたことが伺えました。

子ども達の日常にあるオーストラリアの寄付文化

他にも、オーストラリアの寄付文化が垣間見えるご経験を教えていただきました。

学校が長期休暇に入る頃、お子さん達がチョコレート100個入りの大きな箱を持って帰ってきたそうです。どうやら学校からの課題のようなもので、チョコレート1個3ドルで販売して、休暇明けにチョコレートの空き箱に300ドルを入れて持ってくるというお題だったようです。

とはいえ、たとえ完売できなくても𠮟られることは無く、売った分のお金と余ったチョコレートを学校に提出すれば良いらしく、回収されたお金は色々な非営利団体に寄付されたそうです。

また、過去の記事で紹介した多発性硬化症の啓発と当事者のサポートのための寄付を募る啓発キャンペーンMS MEGA CHALLENGEに、リップパパさんは以前から水泳で参加されているそうです。これは、個人かチーム等の団体で24時間何かをやり続ける取組みで、シドニーオリンピックの影響もあり、水泳へのチャレンジが大半となっているようです。

リップパパさんは、お子さんが2歳の時から一緒に連れて参加していたと言います。お子さんが年齢を重ねて泳げるようになるにつれて、泳ぐ距離も時間も増えてきたのだとか。幼い頃から、このようなチャリティに参加していた経験が、トイレ設置のための寄付集めにつながっているように感じます。


ちなみに、今回インタビューにご協力いただいたリップパパさんは書籍を出されていて、インタビューで伺った経験や考え方をより詳細に書かれていらっしゃいます。

「オーストラリアの寄付文化」や「寄付行為を通じてマネーリテラシーを学ぶ」というパラグラフもあり、寄付集めの過程でのお子さん達の成長ぶりが描かれていたので、「教育」や「子育て」がテーマの本ではあるものの、寄付教育の側面もあると感じたので、ぜひ多くの方々に読んでいただきたい内容でした。


記事をお読みいただき、ありがとうございました!もしよろしければ、サポートいただけると日々の活動の励みになります!これからも日本の非営利活動のお役に立てるように、様々な機会に参加して得た海外のソーシャルセクターの情報や知見を発信していきますので、今後ともよろしくお願いいたします!!