「永井荷風という生き方」

永井荷風といえば、「濹東綺譚」と「断腸亭日乗」くらいしか知らなくて、女と散歩と日記に、+チョー人間嫌いときて、世捨て人的なイメージだが、大げさではなく、全くその通りであった。

多分、ひねくれ者で性格も悪かったのだろうと思われる。

だからこそ興味深くて憧れる存在である。

荷風は、小説でも「そもそも物心ついてから今日まで、私の生涯には恋愛と文芸との二ツより他には何物もなかった」としている。

親に、無理矢理、結婚させられた妻に、「女房になった女に、そういつまでも惚れてる奴がいるか。色と女房は違うぜ。馬鹿」と怒るくらいに遊んでおり、二股三股は当たり前で、日記にピーク時16人の“愛人一覧表”を付けてたくらいだ。意外と商売女は少ない。

やっと満55歳(早いよー)の時に、老いによる性浴の頓挫を自覚している。「老人が青年の恋愛を見てけしからぬことと慨嘆するは、おのれやりたくても男根立たざる故の妬みより起り来るなり」

とにかく日常の通例のことにもいちいち文句を言う。年賀状を受け取っても、「新年の祝賀を受けるいわれもない」として送り返す。日記に同業他者の悪口を書き付ける。

「もともと自分は自己を信ずる事のできぬ者である。自分は今までに一度びたりとも世間に対して厚かましく何事をも主張したり教へたりした事はない。自分は唯訴へたばかりだ。泣いたばかりだ」

「小説なぞはもともとあっても、無くてもよい」という荷風の女好きでアナーキーなエピソードがいっぱいで退屈しない新書であったよ。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。