「詩集 死の淵より 高見順」

Amazonで50円。

戦中に、特高に治安維持法違反で検挙され拷問を受けた作家で、アナキストを題材にした小説「いやな感じ」が代表作?くらいのことしか知らない高見順の詩集を、なぜゲットしたのかは忘れてしまったけど、面白くて一気に読んだのだ。

後年、食道ガンを患って大手術を受けた時期に、病室で書いたものが大半で、いわば死を意識せざるを得ない精神状態(昭和40年58歳で死去)で、外の世界に対する関心よりも、内に注がれる孤独な省察が表れた詩ではあるが、タイトル通りに暗く閉じこもることはなくて、いたずらに比喩・暗喩を使うこともなく、わかりやすくそのままを書いており、とても共感することが多くて、ある意味、開眼させられたのだ。

「まだ小説は書けない。気力の持続が不可能だから。詩なら書けるーーラクなようだが、本当は詩の方が気力を要する。しかし、持続の時間が少なくて済む」

食道ガンとなり死を迎え入れるまでの数年間、本来の鋭敏な神経によってと思われる、何の衒いもなく曝け出した言葉の数々は、確かに俺の心を撃ったのだ。

「掌に 小虫をのせ あるかせる その急ぎ足を かなしむ 人生に似てゐる」

「こっそりのばした誘惑の手を 僕に気づかれ 死は その手をひつこめて逃げた そのとき 死は 慌てて何か忘れものをした たしかに何か僕のなかに置き忘れて行つた」


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。