「小僧の神様 他十篇」

明治生まれの文豪、志賀直哉の短編集。

長編「暗夜行路」しか知らなかったけど、“小説の神様”と言われるだけあって、短編も、完成度が高いと思われる、ムダのない、スッキリとした、わかりやすい文章で読ませる。捨てる作品がない。デコちゃん(高峰秀子)が最も影響を受けた小説家というだけあるね。

ある小僧が鮨屋に入るが、金が足りずに食べられない。貴族院の男が小僧に鮨をご馳走し、小僧は彼を神様ではないかと思う表題作から、完璧過ぎて、おいそれと安易に感想が出て来ない。

有名な「城の崎にて」も、山手線に跳ね飛ばされて重傷を負った(!)著者が、養生で訪れた温泉地で、蜂の死骸や逃げるネズミ、イモリを見て、生きることと死んだことは両極ではないと思いを馳せるという、まさに“神様”らしい心境小説だ。

「范の犯罪」は、中国人の奇術師・ハンが、ナイフ投げの演舞中に、誤って的となる妻の頸動脈を切断し、殺してしまうが、それは故意だったのか、過失だったのかを裁判で問われるという、自我を巡る心理描写はさすがである。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。