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今更人に聞けない"偽サイドバック"について

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みなさんこんにちは。

お久しぶりです。というか更新サボっていてすみません。暇なのですがついダラーっとしてしまうんです。そんな生活を変えるために久しぶりに記事を書こうと思いここまで至ったわけです。

今回の記事は"偽サイドバック"(以下サイドバックはSBと表記します)についてです。この偽SBについてはバイエルンのジョシュア・キミッヒ、ダビド・アラバ、マンチェスター・シティのファビアン・デルフ、カイル・ウォーカー、アレクサンドル・ジンチェンコあたりが有名でしょうか。偽SBが注目されるきっかけとなったのはやはりマンチェスター・シティ指揮官ペップ・グアルディオラが左サイドバックのバンジャマン・メンディーが負傷離脱した際、中盤の選手ファビアン・デルフを左サイドバックにコンバートしたことでしょう(ペップはバイエルンでも主にキミッヒ、アラバに偽SBの動きを行わせていました。またペップの前の指揮官ユップ・ハインケスのもとではアラバに加えて、フィリップ・ラームも偽SBの動きを行なっています)。

まず偽SBとはどのような動きのことを指すのか見ていきましょう。

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偽SBとは図のようにSBが中央の位置まで絞り、なおかつアンカーと同じ高さに位置する一連の動きのことです。この時SBがいる位置は一般的にハーフスペース(ピッチを縦に5分割した時の2番目と4番目のレーン)と呼ばれるところになります。

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ハーフスペース(②と④のレーンのこと)

ここからは偽SBのメリット、デメリットについて話していきましょう。

まずメリットについてですが、1つ目は相手の選手をピッチ中央に寄せることができることです。

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図のようにSBがハーフスペースまで絞ることによって相手のサイドハーフ(以下SH)を引きつけることができています。するとSHがいた位置に大きなスペースができることになり、味方のウイング(以下WG)はそのスペースに降りてくることによってフリーの状態でボールを受けることができます。マンチェスター・シティにはスターリング、レロイ・ザネ、マフレズ、ベルナウド・シウバなどの優れたWGが多く在籍しているのでWGにフリーの状態でボールを持たせることで多くのチャンスを演出しています。WGにフリーでボールを持たせるのに偽SBはうってつけの戦術なのです。また仮にウイングにボールを持たせないようにするために、SHがウイングをマークしたとしましょう。

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すると味方のセンターバック(以下CB)はハーフスペースにいるSBに簡単に縦パスを通すことができ、CBより一列高い位置で攻撃の起点を作ることができます。まとめると、偽SBによって相手のSHにSBのマークにつくかWGのマークにつくか迷いを生じさせることができるのです。

2つ目のメリットは味方のインサイドハーフ(以下IH)を高い位置でプレーさせることができることです。

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図のように4-3-3のアンカーの脇にはIHがいます。

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ここでSBがハーフスペースまで絞ってくることによってIHは敵陣の深い位置まで進出することができます。中盤での組み立てにはSBが参加するのでIHは低い位置に降りてくる必要がないのです(同時にSBはアンカーの安全なパスコースの確保にも成功しているのでボールポゼッションの安定にも貢献していることになります)。マンチェスター・シティにはダビド・シルバ、ケヴィン・デ・ブライネという創造性に優れ、敵の守備陣形を容易く破壊できるようなIHがいます。このIHを高い位置でプレーさせることでより多くのチャンスが作り出せるというわけです。またSB、WG、IHでサイドにトライアングルを作ることができ、なおかつサイドで3vs2の数的優位の状況を作り出すこともできます。

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3つ目のメリットはSBをハーフスペースに置けることです。最近注目されているハーフスペースは相手の守備選手(CBとSB、ボランチとSHなど)の間のスペースになりやすく、相手の選手に迷いを生じさせやすいスペースとなっています。偽SBを行うことでSBは攻撃の初期段階からハーフスペースにいることになります。そこに上下動を繰り返せるSBを配置することによりドリブルなどの前進やインナーラップによって効果的な攻撃参加を促せるのです。

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ドリブルでの前進

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インナーラップによるチャンスの演出

ではここからは逆に偽SBのデメリットについて書いていこうと思います。

まず1つ目のデメリットはSBに普段とは異なるプレーを要求しなければならないことです。偽SBによってSBはアウトサイドレーン(1番と5番の外側のレーンのこと)からハーフスペースへと移動することになります。今までSBはワンサイドの視野、つまり180度の角度でピッチを見ながらプレーしていましたがハーフスペースに進出することで360度の視野を確保しながらプレーする必要があります。ピッチ中央部は相手が密集しているエリアのため様々な角度から相手のプレスが来るのでSBには様々な角度からのプレスを回避しながら空いているスペースやフリーの味方を見つけ出し、そこへ移動する、パスをするというこれまでとは異なるタスクをこなす必要があるのです。なので当然求められるテクニックも異なってきます。今までは何度も上下にスプリントを繰り返すことや正確なクロスを上げることが求められましたが、偽SBの場合は周りのスペースや選手の位置を把握し、適切な位置に立つこと、または瞬時にそれらを認知、判断して正確なグラウンダーのパスを出す能力も求められるのです。つまり下手に偽SBを行なってしまうと自分たちのサリーダ・デ・バロンがうまくいかず、攻撃が機能不全になるリスクがあるということです。マンチェスター・シティにおいてはジンチェンコやデルフ(現在はエバートンでプレー)など本職が中盤の選手をコンバートすることによってこの問題を解決していました。またカイル・ウォーカーに関してはペップの熱心な指導のもと、偽SB時に求められる能力を身につけていきました。

2つ目のデメリットは守備時にアウトサイドレーンを開けてしまうことです。主にネガティブトランジション(攻撃→守備への切り替えの局面)で起こり得る問題なのですがSBが中盤に絞ることにより当然SBがいた位置には大きなスペースができます。

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このスペースをカウンターで使われてピンチになる場面があるのです。具体的に説明すると、通常WGやSHというポジションには足の速い選手が起用されることが多いです。その快足な選手に、SBがいない裏のスペースにロングボールを送り込まれて速攻を決められるといったシーンが度々あったのです。偽SBにより相手のハーフスペースを埋めることはできますが、それでも守備時に足の速い選手が使えるスペースを空けてしまうということは、やはりデメリットの方が大きいと言えるでしょう。

これで偽SBについての一通りの説明は終わりました。最後に、偽SBを実践する際には偽SBを行える選手はチームにいるのかという選手状況や相手チームの特徴を考慮して、メリットやデメリットを考える必要があります(どの戦術にも同じことが言えますが…)。偽SBはあくまでも一つの手段であり、絶対的な正解ではないことには注意が必要でしょう。

以上です。ご意見、ご感想お待ちしております。

引用・参考文献

サッカー新しい攻撃の教科書 カウンターと組織的攻撃の正しい理解と活用 坪井健太郎 小澤一郎 2018

欧州サッカーの新解釈。ポジショナルプレーのすべて 結城康平 2019

ポジショナルフットボール教典 ペップ・グアルディオラが実践する支配的ゲームモデル リー・スコット 龍岡歩 高野鉄平 2020

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