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キオクノート #15 最初の試練

まったくお客様がいらっしゃいません。

開店1ヶ月目はご祝儀来店と言って、ここで誰も来ないなら何でやったの?状態ですから問題外。ここは忙しくさせていただいて。

で、ひと段落しまして2ヶ月目、3ヶ月目の暇さと言ったらありませんでした。

いまのようにsnsなど無かった時代ですので、口コミが全てなわけで、その頃ようやくグルメブログなどが認知されてきた頃でしたが、ぼくができることはほとんどなく、雑誌の取材依頼を断ることなく片っ端から引き受けていきました。しかし、その雑誌が発売されるのは時間差で一月後など。誰にも知られることなく日々は過ぎていきます。

暇さは誰にも良い影響があるわけなく、苛立ちからスタッフにもキツく当たってしまい、3ヶ月目には自分一人に。

料理も仕込んでは捨て仕込んでは捨ての繰り返しで、ランチこそ近所の方がいらっしゃるものの、夜の静けさはまた捨てなければいけない料理のことも頭をよぎり、後悔の文字だけが残ります。

当時所謂ビストロというスタイルのお店が一気に出来たこともあって、他のライバル店の動向が気になって仕方ないわけです。グルメブログを覗いては人のお店に嫉妬を覚え、どうしてウチはとまた落ち込むのでした。

転機が訪れたのは12月。オープンから半年です。正直年内でダメならもう根本的に変わらなければダメだと思っていた頃です。

とあるグルメグランプリを特集する雑誌でデカデカと紹介されたことで、予約が入り始めました。

その雑誌で紹介された写真はその後ずっと作り続けることになる「牛ほほ肉の黒ビール煮込み」です。

クリスマス、年末、年明け、春を過ぎても20席しかないぼくの店は毎日満席を頂戴します。この煮込み料理も毎日何キロも仕込みました。

ありがたいことにスタッフも増え、体制も整い、記憶がないくらい忙しく料理を作り続けました。好循環が訪れたわけです。ここで最初の試練は脱したと言えます。

そして1年半が過ぎた頃、開店時に借入した融資を全額返済することが出来ました。当時先輩方にも快挙だすごいとお褒めの言葉をいただき自分でもやってやったと言う自負が生まれていました。

個人事業の2年目に入っていたわけですが、商売の2年目には落とし穴があるのは有名な話。顧問の税理士にも念を押して説明されていたにもかかわらず、疎かにしていたお金のこと。

借金を返して肩の荷が降り、なんでもできると思っていたぼくはそれはもうルーズな管理をしていたのでした。

次回はそのお店のお金にまつわる話。

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