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キオクノート#10 1回やってみる精神

入社して1年たつとそう、新入社員が入ってくる。

就職二年目に誰もが経験する新体験、ぼくには二人の後輩が出来ました。

調理場の仕事に戻っていたぼくは、自分が教わったとおりに後輩にも教えていった、ところが後輩はうまく仕事をこなせない、先輩にぼくが注意される、後輩に厳しく言う、後輩は萎縮する。。。

よくある、非常にわかりやすく、今なら簡単に解決できる問題だけど当時は頭を悩ませたものです。

結局この問題はここから半年でこの店をやめるまで解決しない。

この頃店はレストランウェディング全盛期で神戸のおしゃれな観光地北野坂ど真ん中のウチのレストランは毎週土日昼夜ダブルヘッダーに加え、近隣の異人館での他のパーティへケータリング、平日はほぼそれにむけての仕込みの日々だった。

仕込みこそうまくこなせるようになってきてはいたが、それと同時にこれで良いのか感がふつふつと湧き上がります。

大量調理、団体料理ばかりで最初に感動したシェフの料理はしばらく拝めていない状態、毎週それでヘトヘトに。

先輩も気遣ってくれ、仕事後に食事や飲み、カラオケなど連れ出してくれたが、正直気分は晴れませんでしたね。

ある朝、決意してシェフに店をやめたい旨を伝えると、そう切り出してくると思っていたと言われた、結構あっさりと。

ぼくの退職願は受理され数カ月後に退職が決まる。

その日からのシェフは人が違うように優しくなって、今まで触ることが出来なかった食材を仕込みさせてくれ、ソースやワインのことも勉強させてくれた。

一回もやったことないのと、一回しかやったことない、というのは意味が違う。」と。

この言葉は今でも大切にしていて、なんでも一回やってみるぼくの行動基準はこの時からだと思う。

退職直前には就職して初、シェフが食事に連れて行ってくれた、緊張していてあんまり覚えていないが、神戸の街が一望できるそのレストランでぼくはこれからしたいことを恥ずかしげもなくシェフにあつく語ったと思う。

シェフが笑いながら聞いていたのだけははっきり覚えている。

その人生はじめてのぼくにとってのグランシェフはもうこの世にいない。

この事も書いておかなければキオクノートではないだろう。

最後にあったのは神戸で、共通の知人の盛大な結婚式だった。

神戸の店は任せて、丹波でご自身の店をされていると聞いていました、そこも友人といつかいこうと思っていたのですが。。。

金髪で少し、いやかなり痩せられた印象で、ずいぶんと久しぶりに顔を見たので一瞬誰かわからなかった。

挨拶を交わした程度だったが、今思えば、お礼や近況を聞いてもらいたかった、また会えない人が増えてしまったと後悔した。

ずっと連絡もせず、距離をおいていたので葬儀にも声がかからなかったし、当然といえば当然だが訃報を聞いたときは悲しかったけど、何も出来ない自分が情けなくもありました。

会いたい人にはそう思った時に会いに行こうと心に決めたはずだったのにって。

そのぼくにとってのグランシェフとの会食のあとは行きつけのシャンパンバーに連れて行ってくれ、激励を頂戴した。

この夜を最後に、最初に就職したレストランは一年半で退職しました。

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