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アントニオ・グテーレス国連事務総長 2020年12月2日コロンビア大学での演説 全訳

明けましておめでとうございます。2020年といういろんな意味で歴史に残る年が終わり、新たな年が幕を開けました。2021年第一弾の私のnoteは、「勝手に翻訳シリーズ第5弾」です。

2020年12月2日に米コロンビア大学でグテーレス国連事務総長が地球環境の現状について訴えた渾身のスピーチを、東京都副知事の宮坂さんに教えて頂き、素晴らしい内容に心動かされました。国連事務総長がここまで言っているということを多くの人に知ってもらいたいと思い、日本語訳が見当たらなかったので、全訳してみました。世界の厳しい現状に触れる一方で、人類がその叡智をかけて様々な取組をしていることも語られており、前を向いて進む勇気が湧く内容です。

思いのほか長くて、2020年中にアップするつもりが年が明けてしまいました…汗。そして、2020年にはもっと色々投稿するつもりが、3本しかできませんでした…涙。今年は学校設立の話ももっと書いていきたいと思います。

グテーレス事務総長のスピーチ英語原文はこちらです↓

https://www.un.org/sg/en/content/sg/speeches/2020-12-02/address-columbia-university-the-state-of-the-planet

スピーチのビデオはこちらです↓

ちょっと長いのですが、お読み頂けたら嬉しいです。以下全訳です。


ボリンジャー学長、親愛なる皆さん、
この会を主催したコロンビア大学に感謝します。オンラインで世界中から参加する皆さんを歓迎します。

この常軌を逸した年の最後の月に、このように常軌を逸した方法で皆さんにお会いしています。

我々は今、壊滅的なパンデミックを経験しており、地球の温度は上昇を続け、生態系の破壊は続き、公正で包括的かつ持続可能な開発という世界的な目標の実現から我々はますます遠ざかっています。

一言で言えば、我々の惑星は壊れかけています。

親愛なる皆さん、
人類は自然に対して戦争を仕掛けています。
これは、自殺行為です。
自然は必ず勝利します。自然は既に、その力と怒りを増幅して我々を負かそうとしています。
生物多様性は崩壊しつつあります。100万の種が絶滅の危機にあります。
生態系が我々の目の前で消え去りつつあります。
砂漠は広がり続けています。
湿地は失われています。
毎年、1千万ヘクタールの森林が失われています。
海では乱獲が行われ、プラスチックのゴミに溢れています。二酸化炭素を吸収した海は酸化が進んでいます。
珊瑚は白色化し死んでいます。
空気や水の汚染により毎年900万人が亡くなっています。これは、COVIDの犠牲者の6倍の数字です。
人間や家畜が野生動物の生息地に侵入しその住処を荒らし、ウイルスや病原体が動物から人間に移っているのです。
人間が感染する新しい感染症の75%は人獣共通感染症であることを忘れてはいけません。
今日、世界気象機関と国連環境計画から新たに発表された二つの権威ある報告書には、気候がどれほど取り返しのつかない状況に近付いているかが記されています。
2020年は、冷却効果のあるラニーニャ現象にも関わらず、世界的に最も暑い年のトップ3に入ると予想されています。
この10年間は人類史上最も暑い10年でした。
海の熱波は記録的な水準です。
今年は、世界の海の80%以上で熱波が観測されました。
北極では2020年、平均より3度以上高い異常な気温が観測され、シベリア北部では平均より5度以上高い気温となりました。
10月時点で、北極の海氷は観測史上最低水準で、再凍結のスピードも観測史上最も遅くなっています。
グリーンランドの氷は長期的な減少を続け、1年に278ギガトン失われています。永久凍土は解け、温室効果の高いメタンガスを出し続けています。
世界の終わりかのような火災や洪水、台風やハリケーンがどんどん日常的になっています。
北大西洋のハリケーンシーズンに、30の暴風雨が観測されましたが、これは長期的な平均発生数の2倍以上であり、新記録でした。
中央アメリカは、近年の災害で最も大きな被害をもたらした、連続した2つのハリケーンから立ち直ろうとしているところです。
昨年、こうした災害は世界に1,500億ドルの被害をもたらしました。
新型コロナウイルスによるロックダウンは、一時的に二酸化炭素排出と汚染を抑えました。
しかし、二酸化炭素のレベルは記録的な高さで、引き続き上昇しています。
2019年、産業革命前と比較した二酸化炭素の水準は1.48倍に達しました。
2020年、パンデミックにもかかわらず、上昇傾向は続いています。
メタンはさらに急上昇しており、2.6倍になっています。
亜酸化水素は、温室効果が高いだけでなくオゾン層を壊すガスですが、1.23倍になっています。
そうした中、各国の気候政策は危機的状況に応えるものになっていません。
1990年に気候変動に関する国際交渉が始まってから、温室効果ガスの排出は62%上昇しています。
0.1度の気温上昇も問題なのです。
現在、気温上昇は1.2度ですが、あらゆる大陸のあらゆる地域で、既に今までに例のないような極端な気候や高い変動性が観測されているのです。
このままでは今世紀中に3度から5度の気温上昇に至るでしょう。
科学は明白です。産業革命前と比べて1.5度までの気温上昇に抑えるためには、これから2030年までの間に毎年およそ6%ずつ化石燃料の生産を減少させねばなりません。
しかし、世界は反対の方向に向かっています。毎年2%の増加が計画されているのです。
この惑星に対する攻撃の副産物は、貧困をなくそうとする努力を妨げ、食料安全保障を脅かしています。
そして、混乱が政情を不安定にし、避難や紛争を引き起こすため、我々の平和への道のりを一層険しいものにしているのです。
気候変動により最も影響を受ける国の70%が、政治的にも経済的にも最も脆弱な国であることは偶然ではありません。
気候危機の影響を最も受ける15の国のうち、8カ国が国連の平和維持活動や特別な政治的介入策の受け手であることは偶然ではないのです。
常に、世界で最も弱い人々に一番皺寄せが行くのです。
問題を引き起こしていない人が、最も苦しむのです。

先進国においても、災害が起きると弱い立場の人が最初の犠牲者となり、立ち直るのは最後となります。

親愛なる皆さん、
はっきり言いましょう。人類の活動こそが、私たちを混乱に陥れる根源なのです。
自然と調和できるか否かが21世紀の最重要課題です。あらゆる地域のあらゆる人にとって、何よりも重要な最優先課題であるべきなのです。
この意味で、パンデミックからの復興は好機です。
ワクチン開発により望みが見えてきました。
しかし、惑星のためのワクチンはありません。
自然は救済を必要としています。
パンデミックからの復興を遂げる中で、我々は同時に気候変動を食い止め、この惑星を修復することが可能なのです。
これは、歴史的な政策のテストです。究極的には、これは倫理観のテストです。
新型コロナウイルスから立ち直るのに必要な何兆ドルもの資金は、1銭たりとも無駄に出来ない未来の世代からの借金です。
こうした資金を使って、壊れかけた惑星を担う未来の世代に山のような借金を背負わせる羽目になる政策を残すことは許されません。
今こそ「グリーンスイッチ」を入れる時です。これは、私たちが世界経済を単にリセットするのではなく、大きく変革する機会なのです。
再生可能エネルギーによって稼働する持続可能な経済は、新しい仕事を生み出し、クリーンなインフラを作り、活力のある未来をもたらすでしょう。
包摂的な世界が実現すれば、人々は健康を享受し、人権を完全に保障され、健全な地球で尊厳を持って生きていけることでしょう。
新型コロナウイルスからの復興と地球の修復は、同じコインの両面であるべきなのです。

親愛なる皆さん、
まず気候の非常事態について話しましょう。気候危機への対策を講じるため、やらなければやらないことは次の3つです。
1つ目は、次の30年間で私たちは全世界でカーボンニュートラルを達成しなければいけません。
2つ目に、全世界の資金は、気候変動対策の世界的な青写真であるパリ協定をバックアップしなければなりません。
3つ目に、気候変動の影響から世界を守るべく、革新的な打開策を見出さねばなりません。特に最も影響を受けやすい人々や国々を守らねばなりません。
それぞれ説明しましょう。
最初にカーボンニュートラルになること、温室効果ガス排出をネットゼロにすることです。
ここ何週間かの間に、非常にポジティブな展開がありました。
EUが、2050年までに最初の気候ニュートラルな大陸になると宣言したのです。排出量を2030年までに1990年のレベルより少なくとも55%は削減すると私は期待しています。
イギリス、日本、韓国をはじめとする110以上の国は2050年までにカーボンニュートラルになると宣言しました。
アメリカの次期政権も同じゴールを発表しています。
中国は2060年までに達成すると約束しています。
これは、世界の二酸化炭素排出量の65%以上を占め、世界経済の70%以上を占める国々が、2021年初めまでにカーボンニュートラル達成のため野心的な取り組みに着手することを意味しています。
私たちは、この勢いを実践に変えていかねばなりません。
国連が掲げる2021年の中心的な目標は、カーボンニュートラルを達成するための真に世界的な連合を築くことです。
私は、2021年が全く新しい飛躍の年、カーボンニュートラルに向けて世界が飛躍的に前進する年になると固く信じています。
あらゆる国、自治体、金融機関、そして企業が、2050年までに排出量をネットゼロにする計画を実行すべきです。排出量の多い当事者こそ、正しい方向に向かって前進しこのビジョンを達成できるよう、自ら進んで迷いなく行動してほしいと思います。すなわち、世界の排出量を、2030年までに2010年のレベルに比べて45%削減しなければなりません。これは、自国が決定する貢献(訳注:パリ協定締結後、各国が作成する貢献案)の中で明白にされるべきです。
我々一人ひとりも、消費者として、生産者として、投資家として、自分の役割を果たさねばなりません。
技術は我々の見方です。
健全な経済分析は我々の同志です。
現在稼働している石炭火力発電所の半分以上は、ゼロから新たに再生可能エネルギー発電所を建てて運営するよりもコストが高いのです。
石炭産業は煙となって消えていくでしょう。
国際労働機関は、石炭産業の閉鎖により仕事は失われるものの、クリーンエネルギーへの移行により2030年までに1,800万の新たな雇用が創出されると予想しています。
しかし、ここで非常に重要なのは、公正な移行です。
エネルギーシフトにより生じる人的な代償を認識しなければなりません。
社会保障や、一時的なベーシックインカム導入、技術の再習得やスキルアップ援助などにより、労働者を支援し、脱炭素による変化の影響を緩和することができます。

親愛なる皆さん、
再生可能エネルギーは、いまや環境のためのみならず経済にとっても最良の選択肢なのです。
しかし、心配な兆候もあります。
いくつかの国は、危機を言い訳にして環境保護政策を後退させました。
天然資源の開発を拡大し、気候変動対策を縮小する国もあります。
G20参加国は、危機対応の支援策の中で、化石燃料の生産や消費に関連する分野に対して、低炭素エネルギーよりも50%多く支出しています。
宣言が口先だけでなく、信頼に足るものであるかが重要です。
一つ例をあげましょう。運輸業です。
もし運輸業が国ならば、世界で6番目の炭素排出国です。
昨年の気候変動対策サミットでは、2030年までにゼロエミッション船舶の導入を推進する企業連合「Getting to Zero Shipping Coalition」を立ち上げました。
しかし、現在の政策はこうした約束を後押しするものにはなっていません。
運輸業界が約束を果たすには、強制力のある規制や財政措置が必要となります。
そうした政策が取られていれば、ゼロエミッション船舶は既に存在しているでしょう。
全く同じことが航空業界にもいえます。

親愛なる皆さん、
パリ協定調印国は、2030年の排出量削減目標を含む、修正・強化された「自国が決定する貢献」を提出する義務があります。
今から10日後に、私はフランスやイギリスと共に、パリ協定5周年を記念して気候変動サミットを開催します。
1年以内に、グラスゴーでCOP26に参加する予定です。
こうした会合は、各国が今後前向きにより良い未来を築くために何をすべきかについて詳細に計画する重要な機会です。2050年のカーボンニュートラル達成という共通のゴールに向けて、パリ協定で定められた通り各国の事情に応じて内容は違えど各々が責任を持って取り組むべきことを各国が確認しなければなりません。

2つ目に、非常に重要な資金の問題について話しましょう。
ゼロエミッションという約束は、投資家や市場、そして財務大臣に、明確なメッセージを送っています。
しかし、さらに一歩踏み出さねばなりません。
全ての政府は、これらの約束を、具体的な工程表をもって政策や計画、目標に落とし込んでいかなければいけません。そうすることにより、実業界や金融界は確信と自信を持ってゼロエミッションに投資することができるのです。
今こそ、
炭素に価格をつけるべきです。
化石燃料に対する融資や投資、そして補助金を廃止するべきです。
石炭火力発電を新たに建設することをやめ、国内外を問わず石炭火力発電への投融資を停止すべきです。
税の対象を所得から炭素に、税の負担を納税者から汚染者に変えるべきです。
カーボンニュートラルという目標を、あらゆる経済政策や財政政策、それに付随する意思決定に組み入れるべきです。
そして、気候に関連する財務リスクの開示を義務化すべきです。
資金は、グリーンエコノミー、気候変動の影響からの回復や適応、脱炭素社会への公正な移行のためのプログラムに向けられるべきです。
あらゆる公的、私的な資金がパリ協定とSDGsの実現に向けて活用されるべきです。
多国間や地域、国の開発機構と民間銀行は、世界的なネットゼロの目標に資する融資を行わなければなりません。
私は、あらゆる資産保有者と資産管理者に、ポートフォリオを脱炭素化すること、そして、国連が立ち上げ5.1兆ドルの資産を保有するGlobal Investors for Sustainable Development AllianceやNet-Zero Asset Owners Allianceなどの取り組みに参加することを呼びかけます。
企業はビジネスモデルを変革する必要があり、投資家は新たなモデルにどの程度レジリエンスがあるかについて情報を要求しなければなりません。
世界の年金基金は32兆ドルの資産を運用しており、大きな変化を起こせる立場にあります。こうした基金が先頭に立って変化を起こさなければならないのです。
先進国は、発展途上国が世界共通の目標である気候変動対策を取れるよう、毎年1,000億ドルの支援を提供すると長年約束しています。先進国はこの約束を果たべきです。
道は長いのです。
これは、公正さ、公平性、連帯、そして賢明な見方をすれば自己利益の問題です。
また、各国がCOP26に向けて準備をするにあたり、炭素市場がきちんと機能するのに必要となる、明確で公平で環境に対して健全な規則を作るため、パリ協定第6条において妥協するよう全ての国に要請します。
私は、9月に立ち上がったタスクフォースが、6大陸から20の分野の参加者を擁し、大規模な民間のカーボンオフセット市場の青写真を開発している動きを歓迎します。

第三に、適応力と回復力を飛躍的に向上させるための打開策が必要です。
我々は、急速に変化する気候に順応するべく、時間との戦いを強いられています。
気候変動対策を考えるにあたって、適応を忘れてはいけません。
現在まで、気候への適応に向けられる資金は気候変動対策資金の20%に過ぎず、2017年と2018年の平均は300億ドルでした。
これでは、災害リスク削減に必要な対応はとてもできません。
しかも、これは賢明とはいえない選択です。
気候変動適応グローバル委員会によれば、適応に1ドル投資すれば4ドル近い利益が得られるのです。
発展途上国が現在そして将来の気候変動の影響に適応しかつその影響から回復するよう支援することは、我々が道義的に当然やるべきことであり、経済的にも意味があることなのです。
COP26の前に、あらゆる援助資金提供者および多国間また各国の開発銀行は、気候変動への適応と回復に対する資金の拠出を、気候対策支援額の少なくとも50%まで引き上げる必要があります。
早期警報システムや気候変動に対する強靭なインフラの構築、乾燥地における農業の改善、マングローブ保全、その他の措置は、世界に二重の配当をもたらします。将来の損失を回避し、かつ、経済的な利益やその他の恩恵をもたらし得るのです。
私たちは、大規模で、予防的、かつ体系的な適応を支援する方向に舵をきらねばなりません。
これは、現在存亡の危機に晒されている小さな島嶼国家にとっては緊急の課題です。
レジリエンスを高める戦いはネットゼロへの戦いと同じくらい重要なのです。

親愛なる皆さん、
我々は忘れてはなりません。気候変動対策を惑星レベルの大きな視野から切り離して考えてはならないことを。世界の公共財も、世界の幸福度も、すべては繋がっているのです。
すなわち、我々は、全ての生命がその存在を依存するこの惑星が健全であり続けるために、より広い視野を持って包括的にあらゆる面で行動を起こしていかねばなりません。
自然は我々に食物と衣服を与え、喉の渇きを癒し、酸素を生成し、文化と信仰を形作り、我々のアイデンティティそのものをも築くのです。
2020年は自然にとって素晴らしい年になるはずでしたが、パンデミックによりそれは叶いませんでした。
我々は、2021年を、惑星レベルの緊急事態に対処する年にせねばなりません。
2021年、各国は昆明に集い、絶滅の危機を食い止め世界が自然と調和して生きるための道筋をつけるべく、2020年以降の生物多様性の枠組みを築くことになっています。
2020年に設定された世界的な生物多様性の目標は何一つ達成されていません。従って、我々はより高い志と強い覚悟を持って、測定可能な目標や実施方法、特に資金調達と監視システムを考案しなければならないのです。
これは、以下のことを意味します。
― 我々による生物種や生態系に対する攻撃を終わらせるべく、保護地域を拡大し、より効果的に運営する
― 生物多様性にポジティブな農業や漁業を推進し、乱獲と自然界の破壊を減らす
― 健康な土壌の破壊や水の汚染、海から魚を取り尽くす漁業など環境にとってネガティブな取組への助成金を段階的に廃止する
― 持続可能ではない、自然に負の影響を与える資源の採掘をやめ、より広い意味で持続可能な消費パターンに移行する
生物多様性とは、可愛らしくカリスマ性のある野生動物だけを指すのではありません。生きて呼吸をし、網の目のようにつながった生命の営みなのです。
さらに、2021年には、各国は世界の海洋環境の健全性を守り推進するため、海洋会議を開催します。
乱獲は止めなければなりません。化学物質や固形の廃棄物、特にプラスチックによる汚染は大幅に減らさなければなりません。海洋保護区域は大きく拡大せねばならず、沿岸地域は今よりも保護されなければなりません。
ブルーエコノミーには大きな可能性があります。海に起因する商品やサービスは毎年2.5兆ドルを生み出し、3,100万の直接的なフルタイムの雇用を生んできました。パンデミックが発生するまでは。
こうした恩恵を保ちながらも、世界の海が直面する環境負荷から海を守るべく、地球規模で緊急に行動を起こす必要があります。
2021年に北京で開催される持続可能な輸送に関する世界会議では、その環境負荷の高さに対処しつつ、輸送という非常に重要な分野を強化せねばなりません。
食糧システムサミットは、世界の食糧生産と消費を変革することを目指しています。食糧システムは我々が地球の生態系の許容範囲を外れてしまう主要な原因の一つなのです。
2021年の初めに、国連は、森林や土地その他の生態系の劣化を世界規模で防ぎ、止め、逆転すべく、「生態系回復の10年」を開始します。この取組は、生物多様性の喪失と気候変動の二重の危機を具合的で実践的な行動により解決することを望むあらゆる人の悲願です。
国際化学物質管理会議は、化学物質と廃棄物に関する2020年以降の枠組を構築します。国際保健機構によれば、化学物質を正しく管理することにより、160万人の死亡を防ぐことが出来ます。
2021年は、新たな都市計画の推進に関しても重要な年となるでしょう。世界中の都市は、持続可能な開発の最前線です。災害に対して脆弱である一方、イノベーションを生み出すダイナミックな場所でもあります。人類の50%以上が既に都市に居住していることを忘れてはいけません。そして、都市人口は2050年には人類の70%に達すると言われています。
つまり、2021年は、略奪を止め、癒しを開始する機会に溢れた年なのです。
我々の最高の味方は自然そのものです。
森林破壊を減らし森林その他の生態系を体系的に修復することは、気候変動を食い止める唯一最大の自然に由来した方法なのです。
実際のところ、パリ協定の目標を達成するのに必要な温室効果ガス削減の3分の1は自然由来の解決策で対応可能です。
世界経済フォーラムは、自然に関係する事業機会により2030年までに1億9,100万の雇用が生まれると予想しています。
アフリカの「緑の万里の長城」プロジェクトだけでも、33万5千もの雇用を創出しました。
何千年にもわたって自然と密接に直接関わることから生まれた先住民の知恵は、我々が行くべき道を示してくれるでしょう。
先住民は世界人口の6%に過ぎませんが、地球上の陸の生物多様性の80%の守り人です。
先住民の管理下にある自然環境は他の地域に比べて衰退の速度が遅いことが既にわかっています。
先住民の多くが気候変動の影響を最も受けやすく環境悪化が進んでいる土地に住んでいることを考えると、彼らの声に耳を傾け、彼らの知識に報い、彼らの権利を尊重すべき時が来ています。
女性が果たすべき中心的な役割も認識しましょう。
気候変動と環境悪化は、より甚大な影響を女性にもたらします。気候変動により移住を余儀なくされた人の80%は女性です。
女性は同時に農業の担い手であり天然資源の守り手でもあります。女性は環境に関わる人権擁護に関し指導的な役割を果たしていると言えます。
そして、国会における女性議員の存在は気候変動対策協定の署名に直接繋がっています。
人類がこれから天然資源統治や環境保全、グリーンエコノミーの構築に向けた戦略を策定するにあたって、より多くの女性が意思決定者として参画する必要があります。

親愛なる皆さん、
私は緊急事態の詳細を述べてきましたが、希望も感じています。
オゾン層の回復から絶滅率の低減、保護地域の拡大まで、我々が歩んできた進歩の歴史を振り返れば、我々に今後何ができるかがわかります。
多くの都市は緑化が進んでいます。
循環経済は廃棄物を減らしています。
環境保護法は広がりを見せています。
現在、少なくとも155の国連加盟国は、健全な環境が基本的人権であることを法的に認めています。
そして、我々の知識は過去最高レベルにあります。
コロンビア大学が、この四半世紀で初めての新規大学院となる気候大学院を立ち上げたとボリンジャー学長に聞き、大変嬉しく思います。おめでとうございます。学術機関がリーダーシップを発揮した素晴らしい例と言えるでしょう。
今日は特別ゲストとして、大学の学長や総長、学部長、教員その他の学者の方々など、持続可能な開発ソリューション・ネットワークのメンバーの多くが列席されていることを嬉しく思います。
国連アカデミック・インパクトは、世界中の高等教育機関と協働を進めています。大学の貢献は我々の成功に必要不可欠なのです。

親愛なる皆さん、
新しい世界が形作られ始めています。
環境に負荷を与える活動も経済的にプラスとみなされるGDPなどの従来型の指標に限界があることを、益々多くの人が認識しています。
マインドセットは変わってきています。
より多くの人が、自分の二酸化炭素排出量を減らし地球の限界を尊重するような選択を日々していく必要があることを理解しています。
また、若い世代が社会を動員して変革の波を起こしている様には心動かされます。
街頭の抗議活動からオンラインでの意見表明…
教室での教育から地域を巻き込んだ運動…
投票所から職場まで…
若者は年長者に正しい行いをするよう訴えています。そして我々は今大学にいます。
人類にとってもこの惑星にとっても今こそ真実の瞬間です。
COVIDと気候変動は私たちを限界に追い詰めました。
我々は今や、不公正や不平等、地球に配慮のない統治の仕方といった古い常識に戻ることはできません。
これからは、より安全で、持続可能で、公正な道を進まねばなりません。
私たちには2030アジェンダ、SDGs、そして気候変動に関するパリ協定という青写真があります。
扉は開かれています。解決策はあるのです。
今こそ、人類の自然界との関係、そして人類同士の関係を変革する時です。
私たちは共に取り組まねばなりません。
連帯こそ人間を人間たらしめるものです。連帯こそが生存を可能にするのです。

それが2020年の教訓です。
パンデミックを終息させようとして世界が分裂し混乱する中、教訓から学び、これからの極めて重要な時期に正しく方向転換していこうではありませんか。

ありがとうございました。


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