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世界二周目の、小さな旅に行ってきます #旅と写真と文章と

空を見上げたら、夏みたいな青空が広がっていた。今は、少し夕陽が傾き始めて、けれどまだ少し日差しの強さを感じるような。春から季節が変わる、そんな6月1日。東京の、三軒茶屋から成田空港。

もう一度、いつかもう一度、長い旅に出るのだ。近い未来に。と思いながら寝たり起きたり、毎日していた。

「書き物をする人は、冬は籠もったほうがいい」。なんでかすごく感銘を受けて、秋から冬、冬から春、そして春から梅雨に差し掛かろうとするまでの日本の季節の移り変わりを、時には笑いながら。時には涙をぐっとこらえたり、少しこぼしたり、大声でやっぱり泣きながら。私はこの数ヶ月を、過ごしていた。

楽しかった、と言ってしまえば、すべての過去はそうやって偽善のカラフルで塗り潰してしまえるだろう、と私は想う。けれど正直に言おう。向き合わねば。どうしてか、どこかいつも苦しかったこの数ヶ月。なぜなのか、じっと冬を見ながら、考えていた。

***

出発の前夜、いえ前々夜。それくらいから、私は渋谷駅の山手線ホームで数十秒後に乗るであろう電車を待ちながら、「もうここには帰ってこないのではないだろうか」という不安が芽生えて消えなかった。

なぜなのかは、全然わからない。と言ったほうが、その不安はぼやっとしたまま、空に消えてしまうだろうと願って止まなかった。

2年前に、この同じ成田エクスプレスに乗りながら成田空港に向かった時は、溢れんばかりの期待と家族と離れる切なさと、何やら恐怖とか仕事への不安とか、なんかもうごちゃまぜな感情を抱えていたはずなのに、一体この数百日間で、私のどこが乾いてしまったのだろう? 諦観みたいなものが、まぶたの裏から消えない。のだ。

という言葉たちを、親しい友人たちに、そのままぶつけて過ごしてみた、数十時間。言葉はふわり空に届いて、気体となってもう一度戻ってくる。

「ただただ、怖かったんだな」と、出国前は、認めてあげよう。

「南米、行ったことあると思ってた」
「中米、とっくの昔に」
「え、ロサンゼルス行ったことないの……?」

世界は広い。私にはまだ、行ったことのない国が、街が、曲がったことのない道が、見たことのない色彩が、たくさんある。アジアとヨーロッパに、長くいた。英語が通じないって、なんだろう。空気が薄いって、どれくらいだろう。化粧水や、メイク落としなどの日用品って、防寒具って、地球の裏側ペルーの街は、一体どれくらい、買えるんだろう。

わからないことがたくさんあった。あんなにミニマリストを気取っていたのに、まるで2年前世界一周に初めて出るときのような、少し増えた荷物を、私は持つ。

はじめての旅は、私も怖い。けれどきっと、それ以上に私を照らす何かが。

地球の裏側にはある。旅先には、あると。信じて生きている。

人生で、一番行ってみたい場所は、ペルーだった。私はとてもミーハーだから、マチュピチュに行きたいなと思っていたのだ。旅に憧れた小学生の頃から、きっとずっと。けどねぇ、どうして31歳を歩いている今日になっても、私はまだそこへ、行けていないんだろう?

私は以前一度結婚したことがあるのだけれど。彼はずうっと言っていた。「ともみはきっと、マチュピチュで暮らしていたのだろうね、ずっと昔に」と。行きたい、いきたい、憧れる、といつも私が、言ってたから。

もう私たちは連絡をとることも、二度と会うこともないのだけれど。それでももし私が地球の裏側へついぞ行くと彼が知ったら、「やっとだね」と笑うと想う。

世界は私を中心に回っているはずはないのだけれど、今日の空は、東京で暮らすすべてのひとを、祝福しているかのような美しい青と雲だった。成田空港に向かう途中の田んぼに、世界が映る。

***

1年半以上買うのを渋っていた新しいレンズを、出国の2日前に震える手でやっと買った。愛している55mmの単焦点。けれど世界を捉えるには、もっと広い目線もほしい。16mm-35mmの超広角ズーム、カール・ツァイス。

新しい世界へ、行こう。泣き言をいうのは、ここまでだ。出国ゲートをくぐってしまえば、もうあとは空を高く飛ぶだけで。すべて日本で背負ったものを、重力で、置いて、置いて。後ろへ流して、そしてまた必要なものだけ拾って前に進むのだ。

さぁ、久しぶりの長い旅だ。といっても来月末に仕事があるので、ふらりと東京へまた戻ってくる。数十日間。たった、人生の、数十日間。

が人生を変えることもある。表面上は何も変わらないとは想うけれど、「動き出す」その事実が私たちの日々を照らすのだ。


現金なもので、成田エクスプレスに乗る瞬間から、旅の風が吹いていた。英語やドイツ語、聞き慣れない言語や肌の色が、私のまわりをまた飛び交う。そうだ、誰かと比べてはいけないのだ。肌が触れそうな距離で誰かとの差を嘆くより、この広い地球のどこか誰かと、私は緑と青の美しさを讃えたい。

もう一度、世界をめぐる旅に出よう。きちんと見てくる、この眼と手で。テクノロジーの進化を、いつだって味方につけて、歩いてくる。


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