見出し画像

満月の下、もう一度同じ場所に立ち返る【タイ・ピピ島】

窓の外、通り過ぎてゆく人たち。足をそのまま出したような短い丈のワンピースを着た女性、なぁにそれ?と思わず聞きたくなるようなカラフルな動物が描かれたハーフパンツ姿の男性。上半身なにも着ていなかったりする彼や、それ欲しい、と思うようなバッグを持っている彼女。

溢れる、色、いろ。

美しくカービングされたパイナップルを、短い楊枝で一生懸命食べる、白い肌を焼いて少し赤くしてしまった肩を出した、西洋人の青年。見ているとなんだか口元が緩んでしまうような、笑顔の跡をそこここに振りまきながら。

夕暮れに向けて、誰もがのんびりとこの空白の時間を楽しんでいるように見える、タイ・ピピ島の午後17時。

私はといえば、1時間300バーツのマッサージ屋さんの、1人掛けソファにゆったり腰掛けながら。今日一日仕事をした自分を慈しむように、マンゴーを食べながらフットマッサージに興じていたり、いなかったり。

***

小さなロングテールボートに乗って向かうピピ諸島たちは、それぞれの島ごとに美しい浜や海の色を持っていて、それでいて息を飲んでしまうような、命奪えそうな切り立った崖で人々を迎えていた。

鮮やかな、海と空と、海の中の魚たちと、配られるカットフルーツ。ロングテールボートに結ばれた布に、甲板の先に飾られた、花、はな。

カメラのレンズを通して覗く海の中は、太陽に照らされてもしかしたら私の眼で見るよりもきれいになってしまっているのかもしれないな、って思ったり。きれい、すごく。泳ぎながら、目を見張る。

長く、長い旅もいつかきっと終わってしまう。なんて長い船の旅なの、と思ったその日も、日が暮れてしまえばまた陸に戻らなければいけない時間がやってきた。

狭い路地をすり抜けて、別の顔を見せ始めたピピの島を、ひとり歩く夜の道。

もうすぐフルムーンだ、と空を見上げてもう一度思う。バイロンベイでも、ドゥブロヴニクでも、フルムーンが見えていた。

巡るなぁ、と考える。何事も巡るのだと思うけど、できたら同じ場所をたどるのではなくて、螺旋状に、ずっとずっと、じっくり登っていくのがいいと、あの人は言っていた。

「何をしようかなぁ」と考えるより、目の前にあることを、与えてもらったことを、一生懸命やってみるのがいいのかもしれない、という当たり前の場所に、またピピ島でもたどりつく。

「何ができるのでしたっけ」と手のひらにあるものをもう一度数えて、そこから新しい道を創っていくのがいいのでない?


今日も海は碧くて、雲はない。あぁいい日だな、と思いながら、やっぱり今日も、文章もカメラも手放せない。

夜が更けて、それでも少し、湿気が減る。じっくりゆっくり、月が濃くなっていくのを感じながら、またきっと今日も、この南国の空の下、私たちは眠るのだ。


いつも遊びにきてくださって、ありがとうございます。サポート、とても励まされます。