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MYP-Math-不平等や格差を数字で探究-

岐阜市にあるサニーサイドインターナショナルスクールでの中等部における数学の実践についてまとめていきます。最終的には、4年間のカリキュラムを作っていくための備忘録として実践を紹介できたらと思います。このnoteを通して「世の中を数学的に見ることができる人を育成すること。」を目指していくプロセスをシェアできたらと思います。


Unit1では「数の起源の探究」を行い、いよいよUnit2では「現代社会で起きている不平等や格差を数字で明らかにする探究」を実施しました。かなり長い探究でした!

Unit2でも数学科で大切にしたいことは同じです。

「世の中を数学的に見ることができる人を育成すること」

Unit2では、MYPの数学の枠組みにある、4つの学習分野の1つである「数」の探究からスタートし、後半では「統計と確率」の分野も入ってきます。

「なぜ、私たちは統計学を学ぶのか?」

生徒は、統計学のもつ力と限界の両方を理解する必要があります。そうすることにより、仮説を立証する場合や仮説に対して疑問を提起する場合に統計学をどのように使うのが適切であるか、また、誤解の誘導、あるいは意見やプロパガンダに対する反論に統計がどのように利用されうるかを認識できるようになります。

「数学」指導の手引き参考(pg.36)

私たちは、日常生活していると様々な数学的なデータを目にして、意思決定の判断をしていると思います。具体的には、世の中でよく見る「売り上げNo.1獲得」という言葉を見て、何かを購入する判断をしたことがある人も多いと思います。しかし、実際はこの統計がどんな情報を元に作られているのか、そもそも情報源に偏りがあることで、誤解を誘導する情報も世の中には溢れています。
ユニットの後半では、統計学の考え方を活用して、社会の中にある不平等や格差の原因をグラフや表を元にして明らかにする活動があるので、後半の部分で詳細は触れられたらと思います。

Unit2のカリキュラム内容

こちらが、Unit2のカリキュラムの概要になります。

【探究テーマ】
不平等や格差は、数量の等価形式を使用することでより明確になる。
【重要概念】形式
【関連概念】同値、量
【グローバルな文脈】不平等と格差
【事実的問い】
・数量の等価形式とは何か?
・2つのものが平等であるとはどういうことか?
【概念的問い】
・どのように2つの異なる形式を同等にできるのか?
・異なる形式を使用するのが効果的なのはどのような場合か?
【議論的問い】
・公平さは計算で求められるのか?
【評価基準】
・知識と理解
・コミュニケーション
・実社会への数学の応用

MYP Mathematics1 by Oxfordの教科書を参考

探究の流れ

具体的な探究の流れはこちらです。

【導入】   
> 難民キャンプで働いていた方の話を聞く
・不平等や格差をGDPで分析
【展開①】 
> 貿易ゲーム
・不平等や格差が生まれる文脈を知る
・不平等や格差を等価形式で分析
・不平等や格差を表やグラフで表す
【形成的評価】
> 貿易ゲームの仕組みを改変する提案書作成
【総括的評価】
> 社会の中にある不平等や格差を探究
・不平等や格差を等価形式で表現
・不平等や格差を生み出す原因をグラフで表す

MYP Mathematics1 by Oxfordの教科書を参考

導入

導入では、JICAの青年海外協力隊で実際にシリアの難民キャンプで活動していた方をゲストに招いて話を聞くところから始まりました。社会の中に格差や不平等が実際に生まれていることをリアルな話を聞くことでジブンゴトになることを大切にしました。
一見社会科のような学習の導入にも思えますが、MYPのカリキュラムでは以下のことが大切にされています。今年度は自分自身が初めてということで他教科と協働で設計することはできなかったのですが、今後他教科とも協働で学習計画を設計する意義を感じました。

MYPにおける学際的学習とは、生徒が2つ以上の教科の知識体系や考え方を理解し、それらを統合して新たな知識を創造するプロセスです。

MYPの原則から実践へ(pg.57)

展開1 貿易ゲーム

貿易ゲームのルール

「そもそも格差はどのように生まれるのか?」
当たり前のように学校に通えている私たちは格差がどのように生まれているのかを想像することはなかなか難しいと思います。ここで取り入れたのは、学習に命を吹き込むためにMYPでは文脈に基づいた指導と学習を重要視している考え方です。

文脈に基づいた指導と学習の中心は、意味へと導くつながりです。科目内容を・・・自分の経験と結びつけることができたとき、生徒は意味を見出し、意味が学習する理由をもたらします。学習を自分の生活と結びつけることは、学習に命を吹き込むことなのです。

(Johnson 2002)

今回、開発教育協会の新・貿易ゲームを参考にしながら、教室の中で文脈に基づいて指導と学習を取り入れました。この貿易ゲームを通して生徒に理解して欲しかったのは、社会には不利な状況と有利な状況が既に生まれており、この不平等な条件の中で平等な社会を目指しても公平な世界には近づくことは難しいということでした。
また、数学版の貿易ゲームということで、製品は正確に作図されたものが取引の条件となります。正確な作図が要求されるので、子どもたちは三角定規とコンパスを使って、正三角形、直角二等辺三角形、正六角形の作図のスキルも図形の性質を考えながら考えることができました。

展開2 貿易ゲームを数学的に分析

スプレッドシート で分析の様子

この貿易ゲーム中に、子どもたちの中には違和感が生まれ始めていました。「このゲームは不公平である。」そして、取引の中で、技術を持っている国の人の方が意見を強くいうことができ、技術がある国とない国の間で不等な取引が行われている現状も起きていました。そして、不公平な状況が生まれていることを明らかにするために、今回のユニットで掴みたい数量の等価形式を用いることで社会の中に起きている格差や不平等を明らかにする数学的な活動を行いました。最初は、その国全体でのGDPを見て議論していた生徒も「一人当たりのGDPで見ないと正しい見方ができない」という意見が出たところで、一人当たりのGDPを計算で求めることで、社会の中に起きている不平等さが明確になっていきました。そして、その原因の1つにコミュニティ内の信頼値が関係しているのではないかという仮説が生まれ、コミュニティ内の信頼値とGDPの変化の相関関係をリサーチも生まれていました。

コミュニティ内の信頼値を調査し信頼値の変化とGDPの相関関係を考察したもの

形成的評価

形成的評価では、不平等さが起きている原因についてリサーチしたことを元に、不平等さを解決するための仕組みを改変する提案書を作成する課題を出しました。子どもたちは、資源と技術を平等にするところから始めると話していましたが、社会の不平等や格差を変えるために、いきなり高い技術と資源を取り入れることは難しいです。
この条件の中で、今ある仕組みをリフレーミングして、社会が公平に近づいていくための仕組みとそれによってどのような変化が生まれるのかをグラフで示すところまでを考えてもらいました。

アフリカ地域の提案

このアフリカ地域の提案は、格差を縮めることは難しいけど、全ての国の経済を平等に発展させることで、仕組みを取り入れる会議でも全地域から合意を得ることができていました。G6では、資本主義経済の中で社会の不平等や格差を改善する方法を考えていましたが、G7-9では共産主義的な考え方で全ての地域が資源と技術を共有する合意が生まれていました。

総括的評価

総括課題の評価基準

総括課題では、ここまで社会の中にある不平等や格差が生まれる背景と、格差や不平等を数量の等価形式を用いることで明確にするスキルを活用して、一人ひとりが気になる社会の中にある格差と不平等についてリサーチする課題を出しました。評価基準についても、子どもたちと最初に確認を行うことで、評価基準を照らし合わせながら探究のリサーチを進めることができました。
具体的な探究の流れはこちらです。

【STEP1】探究の軸を決める
・探究テーマをクラス全員でブレスト
・自分が気になるテーマを選び理由を言語化する
・問いを立てる
・問いに対する仮説を立てる
【STEP2】リサーチ&考察
・自分が選んだ社会の中にある不平等や格差を等価形式を用いて明確にし、グラフや表で示す
・格差や不平等を生み出す原因を仮説に従ってリサーチして表にまとめて考察する
【STEP3】アウトプットと評価
・論文形式でアウトプット
・相互に中間フィードバック
・ポスターセッションでアウトプット
・自己評価と相互評価

探究の流れ

子どもたちから出てきたテーマはこちらです。

・世界における男女不平等
・途上国と先進国におけるインフラの不平等
・途上国と先進国の教育格差
・日本における家庭環境がもたらす教育格差
・途上国と先進国の医療格差
・障害者への差別
・高齢者の相対的貧困の原因etc...

リサーチしたことをグラフにまとめて考察する場面では、自分が立てた仮説に必要のないデータがあることで、本当は伝えたいことが示しにくかったり、あまり変化がないことで格差を示すことが難しい場面がありました。その時に、必要のないデータを削除したり、グラフの縦軸のメモリを変えることで自分が伝えたいことを明らかにするグラフを作成することで、世の中に溢れている情報も操作されている可能性があることを感じていました。実際に自分が欲しいグラフをつくるプロセスを通じて統計学の限界とリスクについても考えるきっかけになっていたと思います。

最終レポートの例をいくつか紹介します。

日本における貧富の格差
世界における男女の不平等/インフラの不平等

私自身、大学時代に教育格差について大学の授業で知ったことをきっかけに海外への留学を決め、帰国後は、非営利の法人を立ち上げ行政と協働で地域の中に子どもたちの居場所をつくる事業を始めました。その時に、世の中にある格差や不平等をパーセンテージと用いて明らかにしたデータを見て衝撃を受けたことが今のキャリアにも繋がっています。子どもたちにとって、数学を用いることで社会の中ある課題を明らかにし、統計学を用いることで解決に向けた仮説を立て、グラフで変化を確認しながら課題解決するスキルのマインドセットができたらと思いました。

参考文献

1. MYPの原則から実践へ(リンク
2. 「数学」指導の手引き(リンク

次回のレポートでは、Unit3の内容をまとめていきます。ここまで読んで頂きありがとうございます。

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