MYP-Math-不平等や格差を数字で探究-
岐阜市にあるサニーサイドインターナショナルスクールでの中等部における数学の実践についてまとめていきます。最終的には、4年間のカリキュラムを作っていくための備忘録として実践を紹介できたらと思います。このnoteを通して「世の中を数学的に見ることができる人を育成すること。」を目指していくプロセスをシェアできたらと思います。
Unit1では「数の起源の探究」を行い、いよいよUnit2では「現代社会で起きている不平等や格差を数字で明らかにする探究」を実施しました。かなり長い探究でした!
Unit2でも数学科で大切にしたいことは同じです。
Unit2では、MYPの数学の枠組みにある、4つの学習分野の1つである「数」の探究からスタートし、後半では「統計と確率」の分野も入ってきます。
「なぜ、私たちは統計学を学ぶのか?」
私たちは、日常生活していると様々な数学的なデータを目にして、意思決定の判断をしていると思います。具体的には、世の中でよく見る「売り上げNo.1獲得」という言葉を見て、何かを購入する判断をしたことがある人も多いと思います。しかし、実際はこの統計がどんな情報を元に作られているのか、そもそも情報源に偏りがあることで、誤解を誘導する情報も世の中には溢れています。
ユニットの後半では、統計学の考え方を活用して、社会の中にある不平等や格差の原因をグラフや表を元にして明らかにする活動があるので、後半の部分で詳細は触れられたらと思います。
Unit2のカリキュラム内容
こちらが、Unit2のカリキュラムの概要になります。
探究の流れ
具体的な探究の流れはこちらです。
導入
導入では、JICAの青年海外協力隊で実際にシリアの難民キャンプで活動していた方をゲストに招いて話を聞くところから始まりました。社会の中に格差や不平等が実際に生まれていることをリアルな話を聞くことでジブンゴトになることを大切にしました。
一見社会科のような学習の導入にも思えますが、MYPのカリキュラムでは以下のことが大切にされています。今年度は自分自身が初めてということで他教科と協働で設計することはできなかったのですが、今後他教科とも協働で学習計画を設計する意義を感じました。
展開1 貿易ゲーム
「そもそも格差はどのように生まれるのか?」
当たり前のように学校に通えている私たちは格差がどのように生まれているのかを想像することはなかなか難しいと思います。ここで取り入れたのは、学習に命を吹き込むためにMYPでは文脈に基づいた指導と学習を重要視している考え方です。
今回、開発教育協会の新・貿易ゲームを参考にしながら、教室の中で文脈に基づいて指導と学習を取り入れました。この貿易ゲームを通して生徒に理解して欲しかったのは、社会には不利な状況と有利な状況が既に生まれており、この不平等な条件の中で平等な社会を目指しても公平な世界には近づくことは難しいということでした。
また、数学版の貿易ゲームということで、製品は正確に作図されたものが取引の条件となります。正確な作図が要求されるので、子どもたちは三角定規とコンパスを使って、正三角形、直角二等辺三角形、正六角形の作図のスキルも図形の性質を考えながら考えることができました。
展開2 貿易ゲームを数学的に分析
この貿易ゲーム中に、子どもたちの中には違和感が生まれ始めていました。「このゲームは不公平である。」そして、取引の中で、技術を持っている国の人の方が意見を強くいうことができ、技術がある国とない国の間で不等な取引が行われている現状も起きていました。そして、不公平な状況が生まれていることを明らかにするために、今回のユニットで掴みたい数量の等価形式を用いることで社会の中に起きている格差や不平等を明らかにする数学的な活動を行いました。最初は、その国全体でのGDPを見て議論していた生徒も「一人当たりのGDPで見ないと正しい見方ができない」という意見が出たところで、一人当たりのGDPを計算で求めることで、社会の中に起きている不平等さが明確になっていきました。そして、その原因の1つにコミュニティ内の信頼値が関係しているのではないかという仮説が生まれ、コミュニティ内の信頼値とGDPの変化の相関関係をリサーチも生まれていました。
形成的評価
形成的評価では、不平等さが起きている原因についてリサーチしたことを元に、不平等さを解決するための仕組みを改変する提案書を作成する課題を出しました。子どもたちは、資源と技術を平等にするところから始めると話していましたが、社会の不平等や格差を変えるために、いきなり高い技術と資源を取り入れることは難しいです。
この条件の中で、今ある仕組みをリフレーミングして、社会が公平に近づいていくための仕組みとそれによってどのような変化が生まれるのかをグラフで示すところまでを考えてもらいました。
このアフリカ地域の提案は、格差を縮めることは難しいけど、全ての国の経済を平等に発展させることで、仕組みを取り入れる会議でも全地域から合意を得ることができていました。G6では、資本主義経済の中で社会の不平等や格差を改善する方法を考えていましたが、G7-9では共産主義的な考え方で全ての地域が資源と技術を共有する合意が生まれていました。
総括的評価
総括課題では、ここまで社会の中にある不平等や格差が生まれる背景と、格差や不平等を数量の等価形式を用いることで明確にするスキルを活用して、一人ひとりが気になる社会の中にある格差と不平等についてリサーチする課題を出しました。評価基準についても、子どもたちと最初に確認を行うことで、評価基準を照らし合わせながら探究のリサーチを進めることができました。
具体的な探究の流れはこちらです。
子どもたちから出てきたテーマはこちらです。
リサーチしたことをグラフにまとめて考察する場面では、自分が立てた仮説に必要のないデータがあることで、本当は伝えたいことが示しにくかったり、あまり変化がないことで格差を示すことが難しい場面がありました。その時に、必要のないデータを削除したり、グラフの縦軸のメモリを変えることで自分が伝えたいことを明らかにするグラフを作成することで、世の中に溢れている情報も操作されている可能性があることを感じていました。実際に自分が欲しいグラフをつくるプロセスを通じて統計学の限界とリスクについても考えるきっかけになっていたと思います。
最終レポートの例をいくつか紹介します。
私自身、大学時代に教育格差について大学の授業で知ったことをきっかけに海外への留学を決め、帰国後は、非営利の法人を立ち上げ行政と協働で地域の中に子どもたちの居場所をつくる事業を始めました。その時に、世の中にある格差や不平等をパーセンテージと用いて明らかにしたデータを見て衝撃を受けたことが今のキャリアにも繋がっています。子どもたちにとって、数学を用いることで社会の中ある課題を明らかにし、統計学を用いることで解決に向けた仮説を立て、グラフで変化を確認しながら課題解決するスキルのマインドセットができたらと思いました。
参考文献
1. MYPの原則から実践へ(リンク)
2. 「数学」指導の手引き(リンク)
次回のレポートでは、Unit3の内容をまとめていきます。ここまで読んで頂きありがとうございます。
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