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#79 俳優の降板に経営者の辞任〝性加害〟という言葉のもつ危険性

性犯罪に絡むニュースをお届けする場合、例えばレイプという言葉は私たちは使いません。そうした事件があった場合、まず警察が「強姦致傷の容疑で逮捕」などと発表します。それを私達は「性的暴行」といいかえて、ニュースにします。

いろいろな意味合いがあります。まず何よりも、被害者への配慮というものもあります。

レイプと聞くと、あからさまですが、性的暴行という言葉でくくることによっていろいろな意味合いを持たせることができます。性的暴行とは、レイプだけを指す言葉ではありません。その他の性犯罪も含めて、性的暴行と言えます。なので被害者の名前を原稿に入れることはありませんが、例えば「○歳の○○容疑者が性的暴行の疑いで逮捕されました、被害者は都内在住20代の女性で…」というような広く、被害者が特定されないような言葉に変えて放送し、かつそれがレイプだったとしてもそう特定されないように配慮しています。

そして「わいせつな行為をした疑いで逮捕」というニュースもよく耳にすると思いますが、これは性的暴行より少し段階が落ちます。落ちるというのは、その犯罪の悪質性という意味でもう少し緩いものになります。

本人の同意なしに体を触る、そういった意味合いが含まれるときにこの言葉をよく使います。なので、子供が性被害に遭あったときなど「容疑者がわいせつな行為をした疑いで逮捕」という言葉になります。

これもまた広い意味合いが含まれるので、直接的にどういったことをしたのかということまではわからないようにしていますし、私達自身もわからない。通常、性犯罪の場合、被害者のことを考えて、被害者の名前や住所などは警察から発表されません。でも、そのニュース自体を関係者が見て気づく、察する可能性もあります。そういった可能性も含めて配慮しています。

報道番組ででてきた”性加害”

そこで、ここ最近出てきたワード「性加害」

このワードって何なんだろうか、と最近僕の中ではとてもモヤモヤしています。結論を先に言うと、おそらく定義付けされたものではないのだと思います。

このワード、週刊誌報道などでよく見ます。香川照之さんの件は、銀座のクラブのホステスさんに対するもの。僕はあれはもう暴行だと思うのですが、
髪の毛を掴むとか、服の中に手を入れて胸を揉むだとか、そういった行動が性加害とされました。

なぜ今回この記事を書こうかと思ったというと、日テレの夜のニュースを見ていたときに、ENEOSの前会長が性加害で辞任した、というニュースを流していたからです。その性加害には「チョンチョン」がついていました。
チョンチョンというのは、これもまた僕初めて正しい言葉を知ったのですが
、ダブルクォーテーションマークと言うそうです。””これですね。”引用してますよ”という意味です。

だから日テレは”性加害”という言葉を出したけれども、これは週刊誌報道の性加害という言葉を引用してますよ、という意味なんです。ある意味逃げたわけです。別に批判してるわけではなく、私達もよく使います。政治家がダァーっと長い話しをしたときにどうしてもタイトル、いわゆる画面に出る文字を短くしなくてはいけない。ただ、鍵括弧「」をつけると、それは一言一句ほぼそう言ったという意味での引用になるのですが、チョンチョン””にした場合は、短縮して要約しています、という意味合いになります。

なので私達もこの””はよく使うのですが、性加害という言葉に関しても、ついに報道番組で””を使ってでてきたのか、と考えさせられたのです。

意味がわからない性加害ということば

というのも、この言葉は、まだ意味が定義づけされていないのではないか、と考えています。この言葉がいつでできたのか、と調べてみたら、2019年の法務省の資料の中に性加害という言葉がありました。

ただ、法務省の資料といいましたが、法務省でプレゼンテーションをした大学の先生がその資料の中で性加害という言葉を使っていて、法務省が使った言葉ではありません。さらに加えて言うと、この性加害という言葉のこの資料の中での使われ方は、性犯罪者がなぜそうした犯罪行為に走るのか、その内面性などを解説する際に使われている言葉なんです。

一方で、ここ最近使われているケースは犯罪行為ではないけれども、あからさまに相手が嫌がる性的な行為、というケースで使われています。無理やり服の中に手を入れて胸をもむ。このENEOSの前会長は報道によれば、服をはぎ取って、その女性はもはや上半身裸に近い状態だった、という話です。でも、もちろん前会長も香川照之さん逮捕されていません。

逮捕される場合は、容疑となる罪名がつきます。強姦致傷とついた場合は性的暴行と表現します。今回は逮捕されているわけではありません。なので、容疑となる罪名があるわけでもない、ただ女性は暴行に近い形の嫌がらせ、もしくはもっとそれよりも、心的な負担が高い行為を受けている。そういったときにこの性加害という言葉が使われてるような気がしています。

過去に使われたときは異なる意味だった可能性

振り返ると、僕が見る限り日本語として登場した一番古いものとしては、2015年に出版された海外の本でした。翻訳したものが売られていたのですが
、そのタイトルの中に性加害という言葉がありました。想像なのですが、おそらく新しく出てきた英単語をどうやって訳そうかと考えたときに、多少ストーレトに訳して性加害という言葉になったのではないか、と推測しています。

皆さんの記憶をたどっても、そんなに頻繁に聞いたことがない言葉だと思うし、まだ一般的ではないと思うのです。これもまた週刊誌報道ですが、2022年4月に映画監督などによる女優への暴行、の記事が出てきたときに、その中で性加害という言葉を見かけるようになりました。

ただ、全誌がそのようにして報じているわけではなく、やはり性被害、性暴力といったようなワードでの報道でした。しかし、彼女たち、つまり女優さんたちが受けていた行為はほぼレイプに近いようなものだったという報道もありますので、性被害という言葉では少し軽すぎるのではないか、という判断が働いた可能性もあります。

ここで一つ言いたいのは、皆さんがこの後もおそらく週刊誌などで、この性加害という言葉を耳にしていくことになると思いますが、この言葉に対する明確な定義づけというのは、おそらくされていません。これが危険なのは、定義付けがされてない言葉というのは、かなり広い意味でも使われていく可能性がありますので、なんとなくわかったつもりでいると、その言葉が使われているニュースの本質、その裏に隠れているもの、本当に何があったのか、それを見誤る可能性があります。定義付けがされてないので、使う側の意図によって、その言葉を自由に使えるようになってしまいます。皆さんがこれまでの週刊誌報道などを見て、こういう意味なんだろうなとふわあっと思っていたとしても、違う意味で使われていく可能性も大いにある。

このような意味をはらんでいる言葉だということを、頭の片隅に置きながら、ニュースをみてもらいたいなと思います。

(voicy 2022年9月23日配信)

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