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みんな初対面の人に「法科大学院既修3年生です」をどう自己紹介してるの?

 自分の社会的身分を表現する術も分からないまま、いよいよロースクールを卒業しそうである。

 みんなは一体、「大学院生」×「既修」という珍味の詰め合わせをどうスムーズに自己紹介しているのか。もちろんこの界隈では問題なく通じるが、ロースクールの外に一歩出ると自己紹介をするのが非常に難しい。

 もし既に最適解を見つけた人がいるのなら、切実に教えてほしい。私もいい加減に決着をつけたいのだが、会話の‘悩みどころ’があまりに多すぎて迷走している。

1. そもそも大学院生の数が少ない

 やはり「大学院生」は、「大学生」より数が少ないので珍しいのは間違いない。例えば、大学卒業後にすぐ大学院に進学する女子の割合は、卒業者のうち5.6%らしい。普通にスト缶のアルコール度数の方が高いじゃないか。

大学(学部)卒業後,直ちに大学院へ進学する者の割合は,令和2(2020)年度では女子5.6%,男子14.2%となっており,男女とも平成22(2010)年以降低下傾向にある(平成22(2010)年女子7.1%,男子17.4%)
第1節 教育をめぐる状況 - 内閣府男女共同参画局

▷悩みどころ①「大学院生?すごい!」
 本当に情けないのだが、何もすごくない。就職して、社会という荒波に揉まれながら世に貢献している社会人の方がよっぽどすごい。

 私は大学1年生の頃、保険会社のコールセンターのアルバイトをしていた。コールセンターというのは、北は北海道、南は沖縄まで全国各地の老若男女とお話をするのだが、悲しいことに『イカれた嫌な客』が少なくない。
 イカれた奴にはイカれた対応をするのが筋だ。そっちがその気ならもちろん拳で抵抗するで?この気質のせいで、私だけ何度も社員と1時間ぐらいみっちり面談を組まれた。

 とにかく社会は理不尽の有象無象なのだ。法科大学院特有の文化であるソクラテスメソッドとかいうアカハラよりも、社会の理不尽の方が怖い。理不尽→地震→雷→火事→ソクラテス→親父の順で怖い。

▷悩みどころ②「司法試験とか受けるんですか?」
 大学院は大学院でも、法科大学院であるという旨を伝えると、百発百中でこの会話の流れになる。確かに司法試験の受験資格を得るためロースクールに通っているのは事実なので、否定はできない。

 しかしやはり、司法試験を受けるだけなら基本的に誰でもできるため、どもった回答になる。日常会話で「あ、ハイ、あの司法試験とか、そこらへんを、ハイ、受けたりするかもしれません」と要件事実ばりの句読点を打つ。しかも司法試験とかそこらへんって一体何?

▷悩みどころ③「弁護士になるんですか?」
 例えば弁護士志望なら、この質問は比較的スムーズに流せるかもしれない。しかし検察官・裁判官志望だった場合、魂を売って弁護士志望という設定でいくか、正直に検察官志望であることを伝えるか迷う。

 弁護士志望だとウソをつくメリットは、相手も弁護士に対する大体のイメージがあるため、それ以上質問をされないことにある。裏を返せば、検察官志望だと正直に打ち明けるデメリットは、更に「検察官って何するんですか?」と質問をされることにある。

 前者だと話がはやい。たまに「『リーガルハイ』観ましたよ!」と言われるが、弁護士がみな古美門研介のように法廷を舞い、裁判官を口説くようなタイプではない。

 後者だと「キムタクの『HERO』とか、ああいう感じです」と回答を重ねることになる。とはいえ、私も『HERO』を観たことはないので説明義務は全く果たしていない。完全にキムタクの知名度頼りである。キムタクに足を向けて寝られない。セクシーサンキュー、キムタク。

2. 未修・既修制度の初見殺し

▷悩みどころ④「何年生なんですか?」
 個人的に一番困るのは、この質問である。何度も「天才なので飛び級して最初から2年生やりました」と噓松のヤケクソ説明をするか迷った。

 正直に「3年生です」と答えると「あっ法科大学院って3年間通うんですね〜」と言われたりする。しかし「いえ、私は2年間通います」と修正なんてすれば混乱させてしまうことは目に見えている。この未修・既修制度の初見殺しはなんとかならないのか。

▷悩みどころ⑤「卒業したら何をするんですか?」
 何をするも何も、無職の修士取得者が爆誕するだけである。私の代まで在学中試験ができない。正直に「無職です」と答えると、お互い口数が少なくなって、そこで会話が終了する。最高裁ばりに口数が少なくなる。

 その空気に耐えられなくなり「逮捕されたら『無職』で実名報道されちゃうので、人生で最も犯罪をしちゃいけない1年間になります(笑)」とか余計なこと言って、そこはかとなくスベるまでがセット。「犯罪をしちゃいけない1年間」って何?ゆりかごから墓場まで、法に触れるなよ。

3. 残り3か月の学生生活

 このまま順調にいけば、2023年3月に卒業する。残り3~4か月の大学院生活だが、もし誰か最適解を見つけた人がいるなら教えてほしい。
 北川景子さん主演の月9ドラマも始まるが、そのドラマのおかげで多少自己紹介が楽になることもあるかもしれない。月9ドラマは始まるし、1つ下の後輩からは在学中試験も始まるし、私と同じような絶妙な悩みを抱える法科大学院生が一人でも減れば幸いである。

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