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香港人の抵抗 in 1995

小学生の頃に見た選挙番組が、今でも鮮やかに脳裏に焼き付いている。私は当時、親の仕事の都合で香港に住んでいた。

ジャンジャン、ジャジャ、ジャジャ、ジャジャ、ジャン。荘厳でいてチープな、懐かしのテレビゲームに使われるような音楽をバックに香港立法局の建物(国会議事堂のようなもの)が映され、選挙の立候補者の顔写真が画面の端から現れて中央にスライドイン、ピタッと止まる。得票数が表示され、当選していた場合は建物の中に顔写真が吸い込まれていく。落選していた場合は、爆破される。顔写真の上にCGの爆炎が広がり、落選者は燃え尽きる。

うえー、いつもながら香港人は激しいなぁ、と子どもの私は思った。

今はどうか知らないが、私が住んでいた20数年前の香港ではメディアでも街中でも、過激な表現はよく見られた。街で売られる三文新聞のトップには鮫に食いちぎられて半分になった死体がボカシもなく写っていたし、テレビは尖閣諸島(釣魚島)での抗議活動で溺死した活動家の土気色になった顔をアップで抜いていた。街角に立つ運動家は拷問死体写真を高々と掲げて法輪功迫害問題を訴えていた。

いまだ収束の兆しが見えない「香港逃亡犯条例」関連のニュースを見ていて、香港の選挙番組を思い出し、あれ?香港の選挙制度ってどうなっているんだろう、とにわかに気になった。私が見た選挙はどのような選挙だったんだろう。

ありし日の私が見た選挙は、おそらく1995年。イギリス植民地だった香港最後の総督、クリストファー・パッテンによる選挙改革があった年だ。パッテン総督は、中国返還前に香港の政治を香港の民衆に渡そうと、民意が反映されにくかった選挙制度を変えるために、直接選挙(日本と同じ。民衆が直接議員を選ぶことができる)枠を大幅に増やしたのだ。
選挙の結果、香港の独立性を掲げる民主派が圧勝し、香港の自由は守られた……ということもなく、民主派圧勝後に中国は香港への圧力を強め、現在に至る。今も香港は完全普通直接選挙制を実現していない。

落選者をことごとく爆破していた選挙番組。当時見たときは単なるオモシロ動画としか思っていなかったが、爆破されていたのは多くが親中派の保守派だったはずだ。あれは香港人の、中国に対する最大限の抵抗とこれからの普通直接選挙の拡大に対する期待の発露だったのではないだろうか。
あのときの選挙番組はあまりにも衝撃的だったので、VHSに録画したように思う。今度実家に帰ったら探してみよう。

香港人の望む香港の姿に思いを馳せながら、私も参院選に行く。
日本の参院選2019は!7月21日(日)だよ!

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