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催涙雨

 職場で数年間ともに仕事に打ち込んだ大好きな同僚が退職して、海外へ旅立った。けれど最後の別れのチャンスに、雨のせいで会えなかった。彼とは全然恋愛関係ではないけれど、とっくに過ぎた七夕を思い出して、織姫と彦星かよ、と思ったりした。

 空港まで見送りに行く約束だったのだけど、大雨で最寄りの駅の路線が冠水し、電車が止まってしまったのだ。車は無いし、代替の交通手段も無くて諦めた。悔しくて、こんな土砂降りだし彼の飛行機も欠航になってしまえばいいのにと思ったけれど、どうやら国際線は雨雲よりも高く飛ぶらしく、そんなに影響はないという。それを知って、なんだかさらに不甲斐ない気持ちになった。

 雨のせいで見送りに行けなくなったとお詫びの連絡をすると、残念、とすぐ返信をくれた。続けて「向こうに着いたらすぐにWi-Fiが使えるようにしてるから、写真でも撮ってまた連絡するよ」とメッセージが来て、わたしはなんだかとても安心した。どこにいても目に見えないもので繋がれていること、そしてそのことを保証してくれるような言葉をもらえたことに。

 そして本当に、着いてからすぐメッセージが送られてきた。「こちらも夏だけど気温25度!快適!」というテキストに、雲の上からの晴れ渡る空と、現地の空港でピースサインする満遍の笑みの彼の写真がついていた。うらやましくてさみしい気もしたけれど、やっぱりうれしくて写真につられて笑ってしまった。「連絡ありがとう」と、酷暑のこちらの気温を添えてわたしもすぐにメッセージを送った。

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