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あの星の話し

 あの頃は本当に何にも考えてなくって、平和だったってことかなぁ。いや、でも文化のあるところには必ず歴史があるし、流れの中でいろいろな変革とかがあってそれなりに苦しんだりもしたと思うんだよ。それでも皆根気よくあの環境を愛して、学生だった人が子を産んで親になるくらいまでの時間、平気であそこを居場所にしたりしていた。

 でもある日いきなり僕たちは散り散りになってしまって。あの星に居た人は皆いっせいに路頭に迷うことになる。元々いたところは消えてしまっていて戻れないし、皆どうにかまた安心して居られる場所を探したりしたんだろうね。僕もそうだけれど、でも、決してあの星のことを忘れない。さみしいからいつも見かけていた人をどうにか探して、運よくまた声を聞けた人もいるし、欠片すらわからなくなってしまった人もいる。そりゃあ中には「ノイズが無くなってむしろすっきりした」なんて強がりを言う人もいたのだけれど、本音はどうだろうか。

 とにかく「今生の別れ」というやつをあんなにもライトに、相当な人数が、それも一斉に経験することになるとは、やっぱり誰も実際には想像できてなかったんじゃないかな。そのくらいあの星に僕たちは浸っていたし、身を任せてずっと仮住まいみたいなことを続けていたわけだけれど、あれは素敵な関係だったなって、今思い出してもうっとりするよ。皆ふわふわの蜘蛛の巣の上で、触れるか触れないかくらいのちょうど良い距離感で遊んでいたんだもの。

 そして今ここから振り返れば、チラチラと光る星屑のような幻影しかない。美しいものって儚いんだよって、僕もいつか未来で若い人に教えたりするのかな。


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