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晴れのち雨

 傘に友だちができたのだけれど、その相手が帽子だったものだから仲良くなるたび傘は憂いた。というのも、前のめりな傘はもうたぶん、帽子に恋をしてしまっていたから。

 だって帽子は青い空の話をしてくれる。だって帽子は素敵な広いつばを持っている。傘と帽子の定位置である玄関のちょっとした収納スペースで、彼らは持ち主が寝入った夜にこそりこそりとお話をした。傘は帽子に、夏の突然の夕立の話を聞かせる。自分で気に入っている傘の骨のしなる部分をすこしみせてあげる。そんな風に関係を深めて、傘は帽子のことを好きになっていった。

 だけど帽子は日差しから持ち主を守り、自分は雨から持ち主を守る役目。憧れはするが帽子と一緒のお出掛けは出来ないだろうと諦めていた。けれど。
「日中は日差しが強く、夕方以降は天気が急変し雷雨の可能性」
 季節の変わり目の天気予報で、持ち主がとうとう彼らを一緒に連れ出した。傘は喜んだ。帽子の気持ちはわからないけれど、一緒に強い日差しを、容赦のない雨を共有できたことが嬉しかった。お出掛けの最中は持ち主に携帯されているので、もちろんお話はできない。でも今日また帰ったら、夜の間にたくさん話したいことがある。

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