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【300字小説】酔山の華金さん

 調子に乗ってしまった飲み会の帰り、たいてい終電に間に合わずひと駅ほど歩くはめになる。自宅まで幹線道路沿いを30分くらいかかるのだけど、わりとその時間が嫌いじゃない。アルコールでぼやぼやになった頭に、冷たい夜風がちょうど心地良い。お気に入りのロックナンバーをイヤホンで聴きながら、ひんやりとした夜の空気の中歩く。

 しかもスペシャルなことに、今宵は桜並木を独り占めだ。

 たった独り、自由で、そしてわたしは無敵である。酔いに任せた足取りで、全能感に浸る。夜風に散る桜吹雪を背負いながら、ほんの少し蒸気した顔で、さながらヒーロー気分で家路を急ぐ。なんてわたしらしい、ちょっと滑稽で、思い切り愉快な夜。

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