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私信 一度、お母さんと歩こう

雨が上がり
久しぶりに会ったあなたは
何度も聞いた話を澱みなく語り始める

あなたに声をかけられた人は
あなたと話をし続けたくて
あなたの意思とは関係なく
あなたの側を離れない

あなたの家で採れた野菜を口にした人は
必ず培(そだ)て方を問うけれど
とても高価な肥料を使うから
誰も同じものを作れない

あなたが有り難がるものは
讃えられるべき家柄と
高価な誂(あつら)えの品々と
あなたの先祖が遺した供養塔

自発的に供養塔の掃除をし
知らぬ間に不燃ごみを片付ける
そんな人が周りにいると語る時
あなたは愉快な心地を滲ませる
あなたを悲しませた人が
バタバタと倒れていったと語る時
あなたは遠くを見ながらほくそ笑む

私は
初めて聞くように相槌を打つ

あなたは
面識不要の言論の場で
「手段を選びません」
「あの手この手で訴えましょう」
と、
「竹やりでB29を突け」
「皇尊(すめらみこと)万歳!」
を言下に滲ませながら
言論の場の「神」を支える
司令官になりきって
誰も拾うことのない
存在の証明を撒き散らす

そして更なる空間に移っては
言論の場の「神」を持ち出して
「日本人論の表現者」
「愛おしい」
等と、あなたなりに讃え挙げ
独り語りを撒き散らす

あなたは
愉快な心地を辿りながら
愉快な心地は必然で
「ふふふ・・」
「ふふふ・・」と
独り笑いを繰り返す

それはそれでいいけれど
せめて
お母さんの手を取って
お母さんの散歩に伴ない
10分くらい
家の周りを歩いてみようよ
地面に立って
そして
あなたの足で歩こう


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