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2023年冬アニメ感想 NieR:Automata ニーアオートマタ

 あまりにも有名すぎる作品なので概要は不要かと思われるが、一応念のため。
 『ニーアオートマタ』は2017年にスクウェア・エニックスより発売されたゲーム作品である。プラットフォームはPlayStation4。制作はプラチナゲームズ。監督・脚本は(みんなのトラウマ製造機でお馴染みの)ヨコオタロウ。
 2010年に発売された『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』の続編として制作されたが、『ニーアオートマタ』は数千年後の世界観を舞台にしているため、部分的な設定の連なりはあるが、物語としての繋がりはほとんどない。ごく一部のキャラクターが続投しているのみである。世界観は地続きであるのにタイトルを『ニーア2』としなかったのは、前作を知らない人でも楽しめる作品にしたい……という配慮のためだという。
 発売は2017年2月23日。販売初週の国内売り上げは20万本であった。通常のゲーム販売は最初の一週間、あるいは一ヶ月売れた後はほとんど売れなくなる……というパターンが多いのだが、『ニーアオートマタ』は長期に売れ続ける。初週20万本でも充分ヒットといえる本数だが、その後もじわじわと売れ続け、2017年4月4日には世界累計出荷・ダウンロード販売数が100万本に達成。2018年3月には250万本達成。その後も勢いはとどまらず、2021年6月時点の記録で600万本に達している。2022年10月6日にNintendo Switch版が販売され、再びランキングに浮上してきているので、販売数記録はまだまだ伸び続けそうだ。
 アワードはCEDEC AWARDS 2017サウンド部門最優秀賞受賞、日本ゲーム大賞 2017年間作品部門優秀賞受賞、Global Game Awards 2017においてはGame of the Year 2017 1ST、Best Open World 3RD、Best Sci-Fi 1Stなどを受賞。第21回 D.I.C.E. AwardsではRole-Playing Game of the Yearに選出されたが、まさか受賞するなど想像しておらず関係者は誰も出席していなかった……という珍事もあった。
 その他にも多くのアワードを受賞し、またユーザーからも長く愛されつづける作品となり、その間にいくつも関連作品が発表され続け、2022年2月23日ニコニコ生放送『NieR:Automata 5周年をゆる〜くお祝いする生放送』においてついにテレビアニメ化が発表された。ゲームの発売から実に6年近く経過してからのアニメ化発表であった。それくらい『ニーアオートマタ』の人気は途切れず、ユーザーに愛され、売り上げを伸ばし続けた……ということだった。テレビアニメ放送のタイミングでNintendo Switch版が発売されたということもあって、人気と売り上げはさらに何年も続く作品になることだろう。

 というわけで今回の『ニーアオートマタ』テレビアニメ化は「プロモーション」という性質よりも、長年のファンの後押しがあって……という性質が強い。そのアニメはどんな内容なのだろうか?

 まずテレビアニメ化の話を聞いて私の個人的な印象としては「それは必要あるのだろうか?」だった。
 というのも、ゲーム版がクオリティとしても表現としてもおそろしく高い水準に達していたからだ。例えば前半のとあるシーン――自爆した2Bが別個体を獲得して目覚めるシーン。9Sに促され「初期設定」をすることになるのだけど、それがゲームのコンフィグ画面。彼らは「アンドロイド」だから、私たちが普段ゲームをしてメニュー画面を開いて設定を操作する場面も、「物語の中の設定」として扱われている。こういう表現ができるのもゲームならではだし、「ゲームを物語にする」という意味をよく理解している人の発想だ。「ただのゲーム的な設定」に過ぎないものでも、アイデア次第では「物語」の一つになる……ということを見せている。
 物語構造もかなり個性的だ。『ニーアオートマタ』はまず2Bで物語が始まり、エンディングまで進む。エンディング後、再度ゲームをスタートすると、9Sを主人公に物語が再開される。9Sの視点から、物語の別局面が展開されていく。9Sの物語をクリアしてエンディングまで到達すると、さらに別の主人公で「第3の視点」による物語が始まる。そして最終的に驚くようなクライマックスに到達してしまう……というとんでもないストーリー構造だった。
 こういう構造の物語はゲーム以外で表現不可能。ゲームでしかできない表現で、しかもそれが非常にクオリティが高く、かつドラマチックに描かれる。だからこそ「名作」の誉れを受けて、発売から7年も経った今も売れ続ける理由になっている。

 そもそもゲーム作品として圧倒的なクオリティに達している上に、ゲームでしかできない表現だらけ。それをアニメにする……いったいどうやって? という疑問と同時に興味が湧き上がってくる。
 アニメで描く限り、大きな制約として「1本道」のリニアな物語になる。またテレビ放送する限り、1クール12話前後の物語に切り分けなければならない。『ニーアオートマタ』はそもそも世界観も基本設定もゲーム独自すぎて、アニメでの変換が難しい。果たしてどのようにアニメシリーズとして「翻訳」していくのか?

 最初の3話まで見た私の印象は、「バラバラになってるなぁ」……だった。ゲームでは美しくまとめ上げられた構造の一つ一つがバラバラになっている。
 例えば第1話にはゲームの2周目で描かれるはずだった9Sがロボットを見下ろしている場面が描かれている。この場面を見て、「アニメ版はゲームでは“別視点”として描かれていたエピソードをまとめて、1本の物語にするつもりだろうか」と考えた。それはそれで、アニメというメディアにする……という点では正攻法だ。
 しかし第2話に入ると、2B&9Sの物語から離れて、ロボットの視点で物語が描かれる。ロボットが草花を育てて……というストーリーだ。これが結構な長い尺を使って描かれる。
 はて……2B&9Sの物語を中心にまとめあげる……というプランではないのだろうか。
 さらに、毎回のエピソード最後には、ちょっとした人形劇がオマケとして付いてくる。この人形劇は楽しいが、「ひと連なりの物語」として見ると余計なもののように見えていた。
 第3話はようやくレジスタンスたちと合流し、共に行動する。ここからゲーム版ではほとんど触れられなかったレジスタンスのキャラクターたちが掘り下げられていく。
 私が見ている最新エピソードは第6話までだが、ここではレジスタンスたちがかつてヨルハ部隊と作戦を共にしていた……という過去が描かれる。
 話数ごとに登場人物の視点が変わっていく。作品のイメージも変わっていく。これが一つの作品としてはまとまりに欠く……ように見えた。

 でもしばらくして、あーそうかそうか……と理解した。アニメ版はゲームでバラバラになっていた視点をまとめ上げるのではなく、ゲームでフォローしきれなかった「別視点」を掘り下げていく。オリジナルストーリーはあくまでもゲーム版。これは動かさない。『ニーアオートマタ』はこれまで小説、舞台と様々なバージョンがあって、そこでゲーム版でも触れられていない傍流のストーリーに肉付けされていったが、アニメ版も同じだ。ゲームでの物語を「追体験」する作品ではなく、ゲームでの体験を「分厚くする」というほうがコンセプトなのだ。もちろんゲーム版の物語を追体験している部分は多分にあるけど、それは半分くらいで、あとの半分は「アナザーエピソード」。アニメ版もゲームで描かれた「別エンディング」の一つというわけだ。
 そう思えば、人形劇のオマケもたくさんある別エンディングの一つとして描かれているわけだから歓迎できる。

 次にアニメ中の作劇を見ていこう。
 キャラクターの作画は非常に高品質だ。クオリティは高い部類に入る。
 ただ引っ掛かるのは「構図」。キャラクターの顔アップショットが多く、映像を見ていると単調な紙芝居っぽく見えてしまう。キャラクターが喋るたびにそのキャラクターの顔ショットへポンと移るから、対話しているだけの映像もどこか慌ただしい。その構図にも奥行きがないから、キャラ作画は高品質なのにひどく安っぽい画面に見えてしまう。
 カメラが引いた場面になると、パースの怪しい背景が出てくる。画面を止めて背景画をじっくり見たわけではないが、どのカットも絵として収まりが悪い。「なんでこの構図?」と疑問に感じる。
 第3話はレジスタンスとともに行動し、ロボットたちと戦う場面があるのだが、背景バースがどれも一目でわかるくらいに破綻している。アクションシーンを描くために必要なセンスは「空間把握能力」。明らかにその能力がなく、絵としてまとめあげる力のない人が演出をやっている。キャラ作画はしっかり描けているのに、構図が決まらないからバトルシーンに緊張感がない。ただ「キャラが格好いいポーズ」をしているだけにしか見えない。
 ただしどのアクションもダメ……というわけではなく、第4話の巨大な人形とのバトルシーンは構図も作画もばっちりハマって見応えのあるシーンに仕上がっていた。演出やレイアウトをやっている人の実力に格差があるのかも知れない。

 もちろん作品のクオリティ自体は高いので、決してダメな作品というわけではない。オリジナル版のストーリーの魅力があるし、キャラ作画は全体的に高品質。
 ただ感じるのは全体を統括するイメージが欠けていること。このアニメの映像だけを見てしまうと、背景に奥行きが感じられない。どの場面ものっぺりした書き割りに見えてしまう。あまり魅力的に見えない。
 アニメ版はひと連なりのリニアな物語を描くのではなく、あえてゲームで映像になっていない傍流を分厚くする……というコンセプトであるのはわかる。しかしそうするとどうしても「1本のアニメ作品」として見るとちぐはぐした感じが出てしまっているのが引っ掛かる。ロボットやレジスタンスのエピソードが個別に掘り下げられていくが、そのエピソードも中途半端な生煮え状態。あのエピソードでは感動しない。そこに奥行きが感じられない背景に、安っぽい人形劇が加わると、ますますもって「1本のアニメ作品」としてちぐはぐとしたものに見えてしまう。
 これで果たしてゲームの体験を分厚くするサイドストーリーになるだろうか……。どこかファンのためのファンムービーという印象から抜け切れていない。やっぱり「バラバラだなぁ」という最初の印象に戻ってくる。アニメとしてのクオリティ自体は問題ないのだが、「一つの作品」として統括する力の弱さを感じる。そうした力を持った「ディレクター」が不在……ということなのだろうか。
 何度も書くがアニメとしてのクオリティはかなり高い方だ。しかし一つのアニメ作品として見ると中途半端。アニメ自体はしっかりできているのだけど、コンセプトの弱さが惜しい。


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