進撃の巨人_サードシーズンogp_02

2018年夏アニメ感想 進撃の巨人 サードシーズン

 『進撃の巨人』サードシーズン。第3幕目『王政篇』へと入っていく。
 『王政篇』はこれまでの『進撃の巨人』とは少し毛色が違う。『王政篇』は舞台が壁内。巨人はあまり出てこない。これまでも背景に語られ、背景のものとなっていた壁内の社会、組織と改めて向き合うフェーズとなっている。
 これまでの『進撃の巨人』はある意味体感型の物語。恐ろしい巨人が出てきて、その巨人に怯えながら戦う物語。どうしようもない圧倒的な存在が目の前にいて、いかに戦うための闘争心を身につけ、技術を会得していくか。その過程で、巨人の中にどうやら謎の勢力がいるらしい、という伏線が語られ、ただただアトラクション的にその過程を追いかけて、楽しんでさえいればよかった。
 『王政篇』になると、人間の物語が中心に……様々な勢力が交差し、構造を読み解いていくのはやや大変になってくる。『王政篇』に入ったところで原作を挫折した……そういう声もちらちらと聞く。これまでの『進撃の巨人』をアクションパートだとすれば『王政篇』はアドベンチャーパートといってもいい。だいぶ複雑になる。
 実際、『王政篇』に入ってからエピソードに枝葉が多くなり、各キャラクターや勢力が掘り下げられ、物語の中心がどこだかわからなくなるし、どうにも……作者自身も迷っていたんじゃないかな、と見られるようなブレもある。
 これをどのようにまとめていくか――エピソードとしてもやや厚みのある『王政篇』をどのように1クールの尺の中に収めていくのか……見所となるポイントは多い。作り手としての構成力、語り手としての能力が試されるフェーズでもある。

 実際のアニメを見ると、エピソードがスムーズに流れていく。これまでの『進撃の巨人』だとどちらかといえば展開は緩慢、一つ一つのシーンを厚めに作り込んでいく(原作に描かれてないところを書き足していく)、という感じだったが、『王政篇』はものすごくテンポが速い。ものすごい勢いで物語が展開していく。
 もちろん、各エピソードに大きな見せ場もある。特に第39話(第3期2話)のリヴァイ&ケニーの壮絶なアクションシーン。相変わらずの神作画披露会。私はとりあえずスローで2周したが、あれだけ派手にカメラが動き回っているのにどのカットで止めても絵が崩れない、トンデモ作画だった。全体で見るとアクションの数は少ないが、一つ一つのインパクトが強い(第3部はアクション自体、かなり少なめだったが)。
 エピソードはだいぶ刈り込んでいる……と、思う。忙しくて原作をチェックできなかったが、色んなエピソードが削られていたように思える。記者たちの葛藤とか、リヴァイの過去とか……(リヴァイの過去は47話にまとめられていた)。枝葉のところはザクザクと切られて、かなりスッキリと見られるようになっていた。単純に物語を追っていて面白いし、ハラハラ感がずっとある。次のエピソードを追いかけていたい物語になっていた。
 これなら物語の中心軸を見失わずに済むし、展開も読みやすい。私はかなりよくなっていたと思うが……評判としてはどうだったんだろう? 原作挫折組もついてきているだろうか。やはり忙しくて評判とか確かめられていないが、たぶん大丈夫だったんじゃないかと思う。

 壁内の謎に迫っていく物語。王政の虚構を暴き、真の王家を擁立する。エルヴィン決死のクーデータ。最初は下っ端憲兵団の腐敗との戦いで、視点は次第にグレードを上げていく。そのクライマックスに置かれるのは超巨大なパパ巨人と、クリスタの戦いに収束する。それは歪んだ壁内の体勢との戦いだし、歪んだ家族関係との決別に向けた戦いだし、クリスタ自身との内的な葛藤との戦いでもある。複雑なアドベンチャーパートのクライマックスでこれまでの全てを吹き飛ばすような超大がかりなショーを用意する……この語り口の絶妙さ(46話の絵コンテがまさかの樋口真嗣。実写版『進撃の巨人』の監督だ!)。三上枝織の芯の強い演技も見所だ(公式サイトを見ると、「104期男子達のアイドル、いやむしろ神様」って書いてるな)。

 ちょっと気になるのは、ロッド・レイス。薬品をぺろっと舐めただけで超大型巨人になってしまったが……あれ、注射で脊椎に打たなければいけないんじゃなかったか。
 エレンも鎧巨人の薬品を口に放り込んで新しい力を獲得したが……。
 まあ、この辺りは目を瞑ろう。

 『進撃の巨人』にとって、作り手としても読む側としても最難関だった『王政篇』。難しいパートだったが、これを乗り越えたところで『進撃の巨人』の読み方、見方はがらっと変わる。“正体不明の何か”との戦いではなく、戦う相手が詳らかになった。調査兵団を阻む、壁内の厄介な障壁もなくなった。より目指すべき目的がクリアになったし、手の内を明らかにすることでむしろ『進撃の巨人』の作品としてのユニークさがより際立った(こうしたディテールを突き詰める工程で失敗する作品は多いが、『進撃の巨人』は見事に乗り越えた)。『進撃の巨人』が作品としての真価を高めた瞬間だった。
 さて、第4幕……次なる『進撃の巨人』はよりドラマとしての深度を深めていく。私個人的に見たいシーン満載なのが第4幕だ。ただただ楽しみだ。

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