たぶん誰でもできる、喋るみたいにメロディやコード進行を紡ぐ方法

とりあえず何もわからない初心者は、ドレミファソラシド(ピアノの白鍵)の音だけで曲を作ってください。背景が知りたい方はキーとか調とかで検索すると良いです。

さて、まずはメロディを作ります。メロディ作りのコツは、文を組み立てる感覚でフレーズを組み立てていくことです。皆さんの頭に?が浮かんでいると思うので、詳しく解説します。

文には係り受けという構造があります。皆さんもたぶん学校で習ったのではないでしょうか。復習しておくと、例えば、

$$
私は明日ピザを作って、彼女と食べる。
$$

という文は、$${私は}$$が$${食べる}$$に係って、$${明日}$$が$${食べる}$$に係って、$${ピザを}$$が$${食べる}$$に係って、$${作って}$$が$${食べる}$$に係って、$${彼女と}$$が$${食べる}$$に係ります。
係り受けの係り元と掛かり先を、括弧が開いて閉じることと対応させて、$${_1(私は食べる)_1}$$みたいに書くと、

$$
_1(私は_2(明日_3(ピザを_4(作って、_5(彼女と食べる。)_5)_4)_3)_2)_1
$$

という構造になっています。文が入れ子になっているパターンもあります。例えば、

$$
_1(私は_2(_3(彼が_4(文章を書く)_4)_3\{のを\}待つ)_2)_1
$$

という文は、$${_1(私は待つ)_1}$$という文の中に$${_3(彼が_4(文章を書く)_4)_3}$$という文が入れ子になって、$${_3(彼が_4(文章を書く)_4)_3}$$全体が$${\{のを\}}$$を介して$${待つ}$$に係っているのが分かりますか?(※$${\{のを\}}$$自体はどこにも掛らず、何も受けません。)
自然言語一般の性質として(少数の例外はありますが)、次のことが言えます。

$$
法則:係り受けは交差しない。 \\\ (直近の括弧が閉じないうちにその前の括弧が閉じない。) \\\ \\\ だめな例:{}_1(X_2(YZ)_1W)_2 \\\ だめな具体例:{}_1(私は_2(彼が見た)_1{}_3(人を殺す)_3)_2\{のを\}
$$

だめな具体例が、意味の通らない文になっていることにお気づきでしょうか。一般的に、係り受けが交差した文は意味が通りません。

そして、文と同じ係り受け構造が、(たぶん)音楽にもあります。

係り受けをもっと簡単に言うと、$${_1(私は_2(昨日走った)_2)_1}$$という文が$${私は}$$で始まったとき、何か述語が来て終わることを脳内で期待して、実際に$${走った}$$という述語が来て、文章が閉じた感じがするという感覚です。
そして私が一番言いたいことは、メロディを作るとき、ある音やフレーズがどの音やフレーズに掛かってフレーズ全体、メロディ全体に閉じた感じが出るのかを意識すれば(そしてこの感覚を研ぎ澄ませば)、たぶん誰でも言葉を話すようにメロディを紡ぐことが出来るということです。(注意:夢を壊すようで申し訳ないですが、メロディを作れることと美しいメロディを作れることはまた別です。文章を書けることと美しい文章を書けることが別なのと似ているかもしれません。)

そして、コード進行も全く同じやり方で作れます。とりあえず何もわからない初心者は、『Cメジャーキー コード』とか調べて、そこに出てくるコードで進行を作ると良いと思います。ただし、メロディを作ったあとにコード進行を作る場合、係り受け構造だけでなく、メロディとコードの協和・不協和も考慮しなければならないので、難易度はちょっと上がります。(でも、耳で聴いていれば分かるので大丈夫です。)

この記事の背景、種明かし

詳しい人なら、例えばコードはコード理論があるからそれを学べば良くない?と思われるかもしれません。実は種明かしをすると、一般的なコード理論の規則(例えばカデンツなど)を係り受けの形式で(正確には文脈自由文法として)記述する研究は一定の成功を収めています。(最も古い例ではWinogradの和声規則(1968年)など。)例えば、先に例として出てきた、文の中に文が入れ子になっているパターンなどは、コード進行でいうセカンダリードミナント($${V→I}$$の$${V}$$を$${I}$$と見なして、新たに$${V→I}$$の構造($${II→V}$$)を入れ子にして埋め込み、$${(II→V)}$$全体が$${I}$$に係っている)などに対応します。つまりは、コード理論などが用いている方法をより一般化して感覚的な方法として書いたのがこの記事というわけです。(そして、コード理論は補助輪としては優秀なので、知っておくに越したことはないです。)

この記事で書いたことには、係り受けが交差しないという性質とプッシュダウンオートマトンの挙動が同等で、プッシュダウンオートマトンが受理する言語は文脈自由言語である…… みたいな数学的(あるいは言語学的)な背景があります。興味がある人は調べてみてください。
そして、コード進行が文脈自由性を持つなら、メロディも文脈自由性を持つと考えるのは極めて自然なことです。このような考えをさらに発展させていった理論には生成音楽理論(GTTM)などがあります。

参考文献

音楽・数学・言語: 情報科学が拓く音楽の地平

言語の構文解析から音楽の構造分析へ

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmpc/25/1/25_29/_pdf/-char/ja

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?