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『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』〜舞台はそこに〜

最愛のバー『bar bossa』へのラブレターとなってしまいましたが、心の琴線に触れるようなストーリが織りなすこの本は大好きで、何回も読んでいます。特に好きなのは冒頭の四季の話と、既婚のカップルが一年だけ付き合うという話です。

1日も早くbar bossaで大切な人とワインを楽しめる日がくることを願っています。

「揺蕩う(たゆたう)」という言葉がある。この本を読んでいて、ふとそんな言葉を思い出した。

この本のショートストーリーには題名がない。小さなワイングラスのアイコンだけが、新しいストーリーが始まったことを伝えてくれる。
恋も人生も揺蕩うように流れていくのだろうと思う。ただその瞬間、瞬間の美しい想いや、ほろ苦い感情を抱きながら。

初めてbar bossaを訪れたのは、いつの頃だろう。ピアニストの友人に「好きそうな店があるよ」と連れて行ってもらった。この店の存在はもちろん知っていたけれど、敷居が高そうで訪れる勇気がなかった。

ドキドキしながら木の扉を開けると、林さんの穏やかな笑顔が、緊張していた気持ちを緩めてくれた。

ぐっと照明の落ちた大人な雰囲気、センスの良い内装、林さんの佇まい、ワインの品数、上品な客層、音楽の趣味、飾られた小さなお花。


全てが私の好みだった。


カウンターに座ると、フランスのエスプリ漂う映画『男と女』のサントラが流れた。

「この映画、大好きなんです」

「よくご存知ですね」

林さんもそのレコードに対する思い入れを語ってくれた。

2度目にbar bossaを訪れた時、またあの曲がかかった。

「あ、この曲...」

「以前好きとおっしゃっていたので」


その瞬間からbar bossaは私にとって特別な存在となった。
この店には親密になりたい人しか連れてこない。とても大切な宝物だから、誰彼ともなく共有したくない。

この本に描かれている程ロマンチックではないないが、bar bossaを舞台にした数々のストーリーが人生を彩ってくれた。
カウンターに座ると決まってあの曲がかかり、この本の主人公になった気持ちにさせてくれる。会話にそっと耳を傾けているであろう林さんの存在は、背筋をしゃんとさせる。

もしこのバーが閉店してしまったら、代わりの店は決して現れない。これはきっと恋に似た感情だ。この恋がなにげなく終わらないことを切に願う。でも例え終わったとしても、贅沢な時間の記憶は私の心にずっと残るだろう。


事実は小説より奇なり…この本を読んで林さんの美しい世界観に触れたら、ぜひbar bossaに足をはこんでほしい。そして自身の恋の煌めきを経験してほしい。

舞台はそこにあるのだから。


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