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ゴーストハンター×ハンター

逆噴射小説大賞2022に応募するために書きはじめたのですが、規定文字数の800字を越えてしまったので、関係なくアップします。1500字くらい。長編の冒頭のみというスタイルは変わりません。賞の〆切までまだ数日ありますが、今回は他にアイデアがなく、参加できずかもしれません。まぁ今作にしてもアイデア的にはありがちな感じが否めないかもしれません。タイトルは苦し紛れ。


 ゴーストバスター3名と最新の除霊ロボット隊の合同チームが全滅したという報告を受けた。特S級かそれに近い強力な念を持った霊かもしれない。ともかく、これで三度目の失敗だ。ビルの持ち主からは毎日のように進捗を問い合わせる電話がきているし、入居者全27名の一時退去費用もかさむ一方だ。
 市内で特S級の霊を扱った事例はほとんどなく、自分自身も経験がなかった。うちが単独で対処できる案件ではないかもしれないと、営繕課の木内さんのところに相談にいった。
 木内さんはもともとこの霊制課の立ち上げに携わったベテラン職員だが、彼の往時の活躍を知る職員は少ない。あとは定年を待つばかりといったおっとりした物腰の人が、行き場を失った荒ぶる魂たちを自らの手で次から次へと昇華させていたとは信じがたいのだ。今から二十年ほど前、魂の存在が証明されてからまだ間もない頃の話だ。今では職員自ら現場に立つことはまれになっている。
「どうやらメイヤーの出番みたいだね」
 木内さんは顎の下に手を当ててうんうん頷きながら事のあらましを聞くと、一言そう言った。
「メイヤーって、市長ですか?」
 冗談ならともかく、市長のことをそんな風に呼ぶ職員はいなかった。それに、市長は現在南米のある都市と友好都市の提携を結ぶため、海外出張中だった。
「ちがうよ、そう呼ばれてる人がいるんだ」
 木内さんの運転で一緒にそのメイヤーと呼ばれる男のもとへ向かうことになった。仕事柄、フリーランスの霊能者やゴーストバスターは大勢知っているが、そうした連中とはややタイプが異なるらしい。
「そんなに凄腕なんですか?」
「六年前の旗傘はたかさ市の事件があったでしょう。あれを解決したのが彼なんだ」
 驚いた。旗傘市は我が近衛このえ市の東側にわずかに隣接する自治体だ。六年前、その中心地にある私鉄三路線が乗り入れる大きな駅に、S級の霊が十体以上もとりつくという事件があった。大勢の見せかけ自殺者を出した上、電車同士の衝突事故も起こり、多数の死傷者が出てメディアにも日々取り上げられたのだった。一時、鉄道が完全にストップし、近衛市も少なからず打撃を受けた。通常、それだけの数の霊が集まってしまったら官民協力して除霊チームを組むが、メイヤーという男はたった一人で立ち向かったのだという。
 各地で起こる心霊がらみの大きな事件の裏に凄腕の霊能者やゴーストハンターの活躍があるという噂はよく聞くものの、出所はみんなネットでどれも眉唾だった。だが、木内さんの話が本当だとすると、そうした噂もあながち根拠がないわけではないのかもしれない。
「私も彼にすべて教わったんだ」
「木内さんが?」
 にわかには信じがたい話だった。木内さんによれば、その男は相当気難しいらしいが、行政の頼みなら無下にはしないだろうという。
 だが、と疑問がわく。定年間近の木内さんに教えたとなると、その人物はかなり高齢ということになるのではないか。それに、なぜ気難しい男が行政の頼みなら耳を傾けてくれるのだろう。通常、お役所仕事と揶揄され毛嫌いされるのが我々の宿命のはずだ。
 詳しく聞きたいところだったが、それより早く車が停まった。どうやら目的の場所に着いたらしい。市庁舎からまっすぐ北に二十分ほどいった辺りの、ぎりぎり市の区域内の土地だった。雑木林を背に一軒の古い民家があり、住人らしい男性が家屋に絡みついた蔦を鉈を使って切っていた。上背があり、肩周りに筋肉がついているのが服の上からでもわかる。
 メイヤーにしては若すぎるようだったが、なぜかその後ろ姿に見覚えがあるような気がした。

いただいたサポートは子供の療育費に充てさせていただきます。あとチェス盤も欲しいので、余裕ができたらそれも買いたいです。