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「金欠ボーイズ 笑いごとじゃない」13話(最終回)

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【13話 ラストチャンス! もう一回一緒にやりたいって言え】


   宇田川はナナを伴って下手より出て行く。
   入れ違いに、平山が古い電球を持って戻ってくる。

平山 (二人を見送り)どうなってんだ? さっきはケンカしてたのに。

我孫子 ま、見てろ。

平山 (古い電球を処理して)何したのか知らないが、家賃が払えなかったら出てかなきゃいけないことには変わらないんだからな。

我孫子 分かってるよ。

   我孫子、ふと座卓脇の小型金庫に目を留める。おもむろに近寄って持ち
   上げようとするが、それは床にくっついて離れない。引きはがそうとし
   て悪戦苦闘するが、まったくダメである。

平山 ムリだ。大家の金庫は大地震が来ても絶対壊れない。大津波が来ても絶対に流されない。本人がいつも自慢してる。

我孫子 (あきらめて)あいつを原子力安全保安院に派遣してやるべきだな。

平山 お前の新しい相方はどうしたんだ?

我孫子 ……もう一人入れてコントやりたいなんて言いやがる。

平山 コント?

我孫子 おれは漫才一筋なんだよ。

平山 それで?

我孫子 別に。

平山 別に?

我孫子 どっかに消えた。

平山 ……。

我孫子 なんだよ?

平山 別に。

我孫子 ……。

平山 ……二人とも計画が白紙になったわけだ。

我孫子 らしいな。

平山 ……それで?

我孫子 それでって。

平山 ……別に。

我孫子 いい加減、また一緒にやりたいと言ったらどうなんだ?

平山 なに?

我孫子 そう思ってるんだろうが。お見通しなんだよ。

平山 ふざけるな。そう思ってるのはお前だ。

我孫子 おれが? ふざけろ。お前が思ってるんだ。顔にそう書いてあるんだよ。

平山 考えてることが顔に出るのはお前だろうが。認めろ。また一緒にやりたいってお前が思ってるんだ。

我孫子 誰が!

平山 一緒にやりたいならそう頼め。そしたら考えてやる。

我孫子 考えてやる? エラそうに。

平山 言っとくが、お前のために彼女と別れたわけじゃないからな。

我孫子 おれだってお前のために新しいコンビをやめにしたんじゃない。

平山 これが最後のチャンスだ。一緒にやりたいならそう言え。

我孫子 バカ言え! お前と縁切るチャンスができて喜んでるんだよ。

平山 じゃ壁の修繕費払って出てけばいいだろ。

我孫子 だからなんでおれが。お前が払え!

平山 お前が空けたんだろうが。お前が払え!

我孫子 そんな金があるわけないだろうが!

平山 おれだってないね!

我孫子 最後のチャンスをやる。正直にもう一回一緒にやりたいですって言え。そしたらこれまでのことは水に流してやる。

平山 お前が水に流すものなんてないだろうが!

我孫子 最後のチャンスだぞ!

平山 お前こそ、これが最後のチャンスだぞ!

我孫子 十秒待ってやる。

平山 こっちだって十秒待ってやる。

我孫子 ……。

平山 ……。

   たっぷり間があったあと。

我孫子 ……6! ……5!

平山 ……。

我孫子 ……4! ……。

平山 ……3! ……2!

我孫子 ……。

平山 ……。

   二人が牽制しあってるところへ、下半身がうんこまみれになった宇田川
   が登場。
   宇田川は、何も言うなと威圧するように二人を睨みつける。

宇田川 ……(場が凍りつく)。

我孫子 ……。

平山 ……。

宇田川 ……十日までに払えよ!

   宇田川、そのまま上手のドアから自宅に戻っていく。
   そこへナナが笑いながら下手から登場。

ナナ オウサム! めっちゃよかった! (宇田川を真似て)「絶対押すなよ! 絶対押すなよ!」。超ウケるー! (スマホを見せて)動画、youtubeにアップしよ。

   ナナは手を振って部屋に戻っていく。
   また平山と我孫子の二人きりになって、急に静かになる。

平山 ……うんこ宇田川、バズるな。

   我孫子は、思わず笑う。
   二人で一緒に笑うが、それもすぐに収束して、気まずい沈黙となる。

我孫子 ……とっくに十秒経ったぞ。

平山 お前こそ。

我孫子 ふん。

平山 ……。

我孫子 ……。

平山 ……(渋々)条件がある。

我孫子 ……なんだよ。

平山 今度はおれが予約する。

我孫子 ……。

平山 いいな?

我孫子 ……そうしろよ。

平山 (頷く)

我孫子 ……決まりか?

平山 ああ。……家賃は?

我孫子 バイトしろ。

平山 お前もな。

我孫子 決まりだ。

   我孫子と平山、ためらいがちに目を合わせる。
   我孫子、照れ隠しに「あーあ」と頭を掻きながら部屋に戻ろうとする。

平山 (呼び止めて)おい。

我孫子 ん?

平山 ……。

我孫子 なんだよ。

平山 三千円も忘れるなよ。

我孫子 ……(苦々しい顔)分かってるよ。



                                     

―― 幕 ――




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