弁護士がイギリスに留学するメリット#1 キャリア編
ぼくがイギリスに留学したのは2022年、入所5年目のことです。
事務所から資金援助を受けることとの関係で、(すごく形式的な手続でしたが)パートナー会議に上申をして、承認をもらいました。
留学を希望する弁護士の多くは、程度の差はあれ、事務所の理解を得ることが必要だと思います。
正直に言って、ぼくが留学先にイギリスを選んだきっかけは、「フィーリング」以外の何ものでもありませんでした(笑)
それでも、留学の計画を詰めていくにつれて、なぜイギリスに行くのか、という質問に対して、真っ当な答えを準備する必要がありました。
そこで、今回は、ぼくが考えるイギリス留学のメリットのうち、弁護士としてのキャリアにフォーカスした部分を中心に書いていきたいと思います!
英国法(特にコモン・ロー)が学べる
イギリスはコモン・ロー発祥の地です。そして、かつての覇権国家であったイギリスの法制度は、多くの国の法制度の起源になってます。
ざっと挙げるだけで、アメリカ、シンガポール、香港、オーストラリア、ニュージーランド、インド、カナダなどがコモン・ローをベースとした法体系を採用しています。
これらの国は、日本とのビジネス上のつながりも深く、ぼく自身、これまでの業務でこれらの国の法制度に触れることも多かったです。
また、リテラルアプローチ、当事者の合意に対する裁判所の不干渉といったコモン・ローの特徴は、大陸法(シビル・ロー)と比べても、当事者の意思が尊重され、法解釈の予測可能性が高く、ビジネスとの親和性が高いと言われています。
そのため、大陸法やイスラム法を基礎とする国との取引であっても、公平性の観点から、コモン・ローを採用する国の法律を契約準拠法にすることが、ごく一般的に行われます。
このように、コモン・ローの理解は、渉外業務に携わる弁護士にとって、ある程度必須だと思うのですが、英国法をベースにこれを習得している弁護士は多くないと思っています。みなさん、アメリカに行かれますからね。
その意味で、「イギリスのロースクールで学びました!」と言えるのは、対事務所、対クライアントへのアピールになると思います。
ただ、実際のところ、イギリスのロースクールでコモン・ローのエッセンスを学ぶような授業は皆無なので、英国弁護士(ソリシター)試験の勉強などを通じて、自ら学ぶことが必要です。
ヨーロッパの法制度に親しくなれる
皆さんご存じのとおり、イギリスは既にEU加盟国でありません。
しかし、約50年にわたりEUの一員であったイギリスには、EU法が深く根付いており、2020年12月31日時点で英国に適用されるEU法については、国内法として引き続き適用されることが定められています。
このような引き続き適用されるEU法は「Reteined EU law」と呼ばれ、2024年からはその枠組みに若干変更があるものの(またどこかで書きたい!)、今後もイギリスの法制度と深い関わりを持つことは間違いないと思います。
14/12/2023追記:
Retained EU Lawについて書きました!
ロースクールの授業でも、たいてい、イギリスの制度を論じた後、EUの制度が説明されます。ヨーロッパ出身の教授もかなり多いです。
生徒の構成を見ても、ヨーロッパ各国からまんべんなく来ており、主要な国については友達ができました。
大手事務所であれば、ヨーロッパ案件のプラクティスグループは必ずあるでしょうし、そうでなくても、EUは巨大な市場ですから、日本の弁護士として案件に携わる機会も少なくないはずです。
特定の法分野を深く学べる
イギリスのロースクールで学ぶことを考えた場合、次の法分野が候補にあがるのじゃないかなと思います。
ファイナンス
イギリスといえば、金融サービスですよね。イギリスの主要産業であり、英国系のグローバルローファームも、ロンドンの金融市場の発展とともに成長してきた歴史があります。
ロンドンで知り合った留学中の弁護士の方の中にもファイナンスを専門にしている人が何人かいましたし、ぼくのロースクールには金融庁から来た人もいました。
競争法
イギリスというよりは、先に述べたEU法を深く学べることとの関係で、競争法を専門にする方も、イギリスのロースクールが選択肢の一つに入ると思います。ぼくは全くの専門外なのですが、EU競争法は、世界的な影響力も大きく、米国競争法とは異なる点も多いと聞いています。
データ保護
ぼくはロースクールで主にこれを勉強しました。
Retained EU lawによって、イギリスでは基本的にBrexit前のEU法が引き続き適用される状況にあると先ほど述べましたが、ことデータプライバシー法制に関しては、EUとの協調が強く意識されており、イギリスのデータ保護法(UK GDPRなどと呼ばれます)は、GDPRとほぼ同じです。
EUは、表向きには健全なデジタル社会の実現に向けて、実際にはEUが主導権を握るために、デジタル周りのルール作りに非常に熱心であり、しばらくは活発な動きが続きそうです。
国際仲裁
ロンドンは、主要な仲裁地の一つであり、国際仲裁に関する判例も日本とは比べ物にならないほど多く、また、経験豊富な仲裁人が多数います。
だいたいどのロースクールにも、国際仲裁を専門的に勉強するコースが設けられています。
海事
まったくの専門外なのですが、海事といえばイギリスです。
保険
同じく、保険といえばイギリスです。
修士論文が書ける
これがメリットなのかどうかは人によると思いますし、そもそも、弁護士としてのキャリアに関係するのかも怪しいですが、ぼくにとっては、イギリスのロースクールを選んだ大きな理由の一つです。
ぼくは、大学生のときは弁護士になるなんて思ってもおらず、社会人になって弁護士を志した際も、予備試験ルートを選ぶことにしたので、日本のロースクールには通っていません。
要するに、これまでの人生で、一度も高等教育機関でまともに勉強をしてきませんでした。せっかくロースクールに通えるなら、アカデミックな営みがしてみたかったのです。
実際、修士論文の作成は楽しかったので、満足しています。
ブリティッシュ英語が身につく(?)
残念ながらぼくは身についていません!
イギリスのロースクールのLLM課程も、アメリカのそれと同様に、ほとんどの生徒が外国人です、ぼくの学校は、教授陣もほとんどが英語を母国語としない出身の人でした。
そのため、実は、ロースクールに通う間は、生のブリティッシュ英語に触れる機会はあまり多くありません。
そもそもの問題として、ロースクールの要求スコアを取れる程度では、全然喋れないし、聞き取れないので、ブリティッシュ云々の前に、英語を身につける必要があり、全然そのレベルまで達しません。ぼくは今も鍛錬中です!
ただ、これもきっと人それぞれで、元々英語が流暢だったり、英国人と深くかかわるコミュニティに属していたりすれば、身につくのかもしれません。
いざ書いてみると思いのほか長くなってしまいました。最後まで読んでいただきありがとうございます。
イギリスへの留学を考えているどなたかの参考になればうれしいです。
パート#2に続きます!
弁護士のイギリス留学に関するいろいろなことを書いています。
よければ、ぜひご覧ください!
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