見出し画像

「仕事」のできる人ほど出世しない

「仕事」ができる人がどうして出世しないのか、役員人事などを見るととても不思議だ。現実に、サラリーマンの世界では、仕事のできる人ほど出世しない。特に、自分ができる人間だと思っている人ほど出世しない。一般的な常識では、会社は仕事の場なのだから、仕事ができる人が出世して当たり前である。だから、私たちは仕事ができる人間になろうと一生懸命頑張る。しかし、勘違いに気をつけなければならない。会社組織は仕事のできる人が出世できない仕組みになっている。仕事のできる人には深い落とし穴が待っている。

自らもテキパキと仕事をこなし、部下が判断を仰ぐとすぐに決断し、的確な指示を与えるような部長がいる。社内におけるその分野の第一人者と目されており、自らの自負もある。会議の席では堂々と正論を主張し、自分の分野に関する事柄では上司に直言することもある。部下からは仕事のできる人と尊敬されている。誰ともつるまず、上司に媚も売らず、仕事一筋である。自分の実力からすれば、次の取締役候補だと考えている。しかし、役員への昇格人事では同僚の部長が選任され、子会社へ転出の辞令を受け取る。

あなたが管理職に就く前の一般社員である間は、あなたが仕事のできる人であれば評価は高い。在籍年数に応じて順調に昇給し昇進する。しかし、仕事ができることが評価されるのは、せいぜい課長までである。企画開発部門、製造部門、営業部門、また、財務経理、人事、総務などの本社管理部門のいずれにおいても、課長までの仕事は、やるべき理由、やるべきこと、やり方、成果の表れ方などが、作業としてはっきりしている。あなたは課長として、明確な枠組みの中で仕事を行っている。

あなたが部長になると、世界が全く変わる。仕事の性格も変わってしまう。担当する専門性の高い業務を、会社目的や目標にいかに調和させることができるかということが、「仕事」の重要な目的となる。すなわち、部門マネジメントから全般マネジメントへと、視点の転換が起こらなければならない。部長の仕事は部門視点でなく全社視点からなされなければならない。往々にして部門最適と全社最適は矛盾する。部長としの新しい「仕事」は、対立する部門最適と全社最適の調整である。そのためには、政治的駆け引きをともなう政治力や政治的妥協の技術など、新たな技術や能力が必要となる。しかしながら、課長として優秀であった人ほど視点の転換が難しい。課長時代に受けた賞賛や成功体験が、視点の転換を妨げる。部長職では、部下からする仕事のできる上司は、上司からすると仕事のできない部下となる。

「仕事人」とは、開発、製造、営業、本社機能部などの、専門的な領域の職務にたけた人のことであり、それら機能的な職務の遂行を重視する。これに対して「組織人」とは、組織の目的や目標の達成を重視し、自らの管轄下の業務を組織目的や目標に適切に適合させることにたけた人のことである。人は仕事人タイプと組織人タイプに分かれるが、職務階層が上がるにつれて組織人が重用されることになる。専門分野に優れた仕事のできる仕事人も、部長職では組織人に変身しなければならない。

加えて、上司が引き上げてくれるから出世できるのであって、仕事ができるから出世するのではない。出世できない仕事のできる人は、ここを誤解している。さらに言うのなら、役員ポストは政治力学で決まる。いずれのグループにも属さない独立心の強い人を、引っ張り上げようという上司などいない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?