商社マンの転職市場における市場価値の実態について⑤ ~自らの経験を基に~

最後に、大手商社に在籍するリスクを考えてみたいと思います。まず会社が消えてなくなるリスクは当面は無視して良いと思います。これだけ巨額の資本を必要とする事業ですから、資金調達の規模がまずもって参入障壁と言えます。

今から大手商社の向こうを張って総合商社を創業してやろう、なんて考えている人はほぼいないと思います。しかも足下の業績は資源価格の高騰を受けて極めて好調です。

ではリスクは無いかと言えば、これが非常に逆説的ではあるのですが「資源価格上昇に伴う最高益の更新」です。会社としては資源価格の上昇が有利であるのに、従業員の立場ではリスクになるのは何故か?

それは、個人のスキルセットとは全く無関係な要素で、日本のTOP1%の年収を稼ぎ続ける事態が継続するからです。

ありていに言えば、これは人間の思考停止を助長します。大手商社へ入社した時に抱いていた「デカい仕事を創る」という大志を忘れ、例えどれだけ仕事が面白くなかろうとも会社に居続けることが目的化します

そして高給を前提に組んだ生活スタイル(住宅ローンや子供の教育費⇒これらは基本的に固定費の性質が強い生活費なので削減が難しい)から抜け出すことができなくなり、その生活スタイルを維持する為に已む無く会社に居続けることを選択します。

よって、一般の商社マンは「会社から離れることがリスク」だと考えます。しかし、人生の本来の目的を見失い、大義から目を背けた人間に最後に残るのは、同調圧力とそれがもたらす思考停止です。思考停止でいなければ精神が持たないからです。一種の自己防衛本能とも言えます。

自分は2021年に海外から帰任した時、14名からなる組織に帰任し、そこには50代の先輩社員が6名在籍していました。そしてこの6名が例外なくこのパターンにはまっている姿を目の当たりにし、10年先のことを考えて躊躇なく会社を去る決断をしました。

自分は出向経験や海外経験など、一般の商社マンが持つ経験に加えて、MBAを持ち、高等資格をぶら下げ、何をしてでも外で戦っていける自信があったことは確かです。

しかしそれ以前に、会社から離れることがリスクではなく、会社に居残ることがむしろリスクであると直感したことが、周囲との最大の違いであったと思います(大手商社では普通はそういう思考にはなりません)

次回に続きます。

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