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あたりまえの生活を支えるインフラのUIデザイン!その開発プロセスをご紹介

こんにちは。東芝の社会インフラ事業に関連したUIデザインを担当しているREIです。 
私たちはよく鉄道を利用しますが、その裏側にはなかなか触れる機会がないと思います。実はそこにもデザインは活躍しているので、今回は、安心な日常生活を支えるインフラのUIデザインに関して、デザイン手法をご紹介しながらお話したいと思います。

回生電力貯蔵装置の監視画面イメージ
2021年iF賞とグッドデザイン賞に入賞

1. 回生電力貯蔵装置ってナニ?

回生電力貯蔵装置(Traction Energy Storage System 以下、TESS)は、変電所に設置されていています。電車が減速する際に発生する電力(回生電力)を電池であるSCiB™(下図参照)に貯蔵し、電車が加速する際や、災害・停電時に、非常電源として有効利用できる素晴らしい装置なのです!

TESSの仕組み

2. 現場観察でお困りごとをリサーチ

より良いシステムや最適なUIデザインを考えるために、まずは現行のTESSが設置された現場に伺い、作業員の方に対して行動観察とヒアリングさせて頂き、お困りごとの調査を行いました。(初めて変電所内を見学させていただいてとてもドキドキワクワクしました…) 
リサーチの結果、システム状態を示すモニターの情報提示方法に問題があることが分かりました。ベテラン作業員にとっては長年にわたって培われた豊富な経験があるため、モニターを見てすぐに次の行動の判断ができるのですが、経験の浅い作業員は他の情報(設備の配置図や故障対応表)を参照し、メモをとらないと理解できないことに気づきました。また、インタビューでは、ベテラン作業員の減少と若手作業員の人材不足により、技術継承に課題があることも知ることができました。つまり、新たに入ってくる作業員が即戦力として活躍できることが、UIデザインで解決すべき課題の一つだということです。

現行装置の操作イメージ

3. システム全体をひとつの生命体のような動きで表現したUIデザイン 

経験の浅い作業員に分かりづらい原因の1つが、作業で確認すべき数値や画面での見せ方です。今までは、複雑な表組で表示しており、これではシステム全体の中でどこに異常があるのかを、直感的に把握することができません。
そこで、システム全体を一つの生命体ととらえることをデザインコンセプトに、生命体ならではの動きをつけて理解を助ける表現を目指そう!と考えました。

TESS画面のBefore(左図)とAfter(右図)

例えば電力の流れは、まるで血液が流れるようなエモーショナルなアニメーションで表現しました。 これまでは、充電中か放電中か、表の中の矢印の向きを変えることで表現していました。これではシステム全体の電力の流れを把握するために、知識や経験、想像力が必要とされます。
そこで、電力の流れる方向はアニメーションを用いてグラフィカルに表現することで、充電/放電の状況が容易に把握できるようにしました。
また、システム起動時は、それぞれの部位が目覚めていくような動きをつけることで、状態変化の理解を助ける工夫をしました。
こういった直感的に伝わる表現を、プロトタイピングによる検証と改善を繰り返しながら探りました。
プロトタイプを見ていただいた現場の作業員の方々からは、当初の狙い通り「言葉に頼らず直感的にわかる!」と好評をいただき、自信を持って進めることができました。

TESS画面の放電中アニメーション

また、作業内容ごとに利用する端末の種別にもこだわりました。新人作業員がメモを取りながらモニターと電力貯蔵装置を行き来するところに着目し、固定のモニターからタブレット端末に変更することを提案しました。
取り外した手元のタブレットを参照しながら点検作業や故障確認ができるようになり、メモを取る手間のない、よりスムーズでスピーディーな作業環境を実現しました。

持ち運びながら確認作業をするイメージ


4. みんなで一緒にモチベーションアップ!

このデザインを担当してとても嬉しかったことは、社内の士気を上げられたことです。私が参加した当初、プロジェクトでは、新たな開発に向けて様々な課題を抱えて悶々としていました。
そんな中、デザイナーが参加し会議のファシリテーションをすることで、メンバーの考えが可視化され、乗り越えるべき課題もメンバーの共通認識として確認することができました。プロジェクトメンバー全員が同じ方向を向くと、議論にも拍車がかかります。メンバーが一丸となってアイデアを出し合い、プロトタイピングするというプロセスを繰り返すことで、プロジェクト自体が一体となっていきました。
技術者からも、デザイナーをプロジェクトに加えたことで、今まで試したことのなかった開発内容や斬新な表現ができたと言って貰え、私自身もデザイナーやデザインの力を改めて感じることができ、自信も得ることができました。

開発メンバーで画面案の方向性を検討中

5. 社会の当たり前をデザイナーが支える

バングラデシュ ダッカにて

今回新たに開発したシステムは、バングラデシュの変電所に設置することになり、現地で試験を行った開発メンバーから、システムを初めて起動した時の、前述のアニメーション効果を食い入るように見つめる現場作業員の方々の姿がとても印象深かったという感想を聞いて、魅力的なUIをデザインできたことがとても誇らしく、うれしく感じました!😊
 
そして、現場リサーチで知ることができた若手の人材不足という課題についても、開発メンバーとして目をそらすことはできません。
カッコイイ電車、綺麗な駅舎やサイン等のデザインは一般の方々も目にしますが、それらを支えるインフラシステムのデザインを目にする機会は少ないと思います。 しかし私たちは、インフラの現場だからこそ、操作性を確保しつつも、革新的な表現を取り入れていく努力が必要だと考えます。魅力的なUIは、働くことの楽しさやモチベーションの向上につながります。それは、私たちの生活を支える原動力となって、東芝のデザインが目指す「うれしさの循環」を生むのではないかと思うのです。 
このTESSのような先進的なUIデザインが、業務そのもの魅力を高めて、若い人材の確保につながってくれるものと信じています。
 
このように、バックステージから社会に貢献できるインフラシステムのデザインは、とてもやりがいがある仕事だと感じています。 今後も、社会を支える基盤となるシステムだからこそ、新しい表現にどんどんチャレンジしていきたいと思っています。

6. さいごに

関連サイトには、ここには書ききれなかった内容が掲載されていますので、気になった方はぜひご覧ください! 
 
【iF賞 】
https://ifdesign.com/en/winner-ranking/project/energy-storage-system-for-railway-with-scib/310682 
 
【GOOD DESIGN AWARD 】
https://www.g-mark.org/award/describe/52402?token=5R9N8TYaNZ 
 
【東芝のデザイン 】
https://prv.global.toshiba/jp/design/corporate/works/09.html 
 
どうもありがとうございました! 
ライター:REI


東芝UIデザインチーム公式HP