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フィルムカメラと旅をする 松山道後 day2

二日目。
雨が少し降っている。元々予報でも二日目は雨だったのだが、荷物が増えるのを嫌って傘は持っていなかった。幸い小雨なのと、多少の雨なら普段から傘は差さないので気にせず外に出る。それに、この程度の雨ならライカも大丈夫だろうと思っている。

朝食はホテルで摂るという選択肢もあったが、折角なら地元のご飯をと思いおすすめされていた鍋焼きうどんの「ことり」に向かう。愛媛で鍋焼きうどんが有名なのは知らなかった。いりこ出汁のあっさりした味らしく、私の好みにも合う。



時間によっては並ぶらしいが幸いオープンしてすぐぐらいの時間だったのもありすぐに入ることが出来た。だがお店は既に満席に近く観光っぽい方も沢山いて有名なのだと実感する。
肝心のうどんはとても美味しかった。地元の香川のうどんとはまた違った優しい味で、温かいうどんが身体に染み渡る。



うどんを食べた後は今日の目的地である萬翠荘と坂の上の雲ミュージアムへ向かう。それらはすぐ隣にあるみたいなので、とりあえずその方面へ向かって歩いて行く。松山の金座街という有名な商店街を通ったのだが、全体の長さもあり大きな商店街だと思う。平日なのもありかなり落ち着いた様子だった。
知らない街を歩くのは面白い。特に観光地や大通りでなく、普通の道を歩く。私はたまたまそこに訪れた異質な存在なのだが、それを知る人はいない。いや、すれ違った人も今日たまたまそこを通っただけで明日には県外の元いた場所で暮らしているのかもしれない。

しばらく歩き目的地に到着。ミュージアムが手前にあり、奥に少しだけ進むと萬翠荘がある。以前に結婚式の前撮りを興雲閣という島根県松江市にある明治時代に作られたレトロな建物で行ったことがあり、それ以来海外の建築様式を取り入れたレトロな建物が好きになった。(ちなみに萬翠荘は大正時代)


ちなみにこの写真が撮れる位置は坂の上の雲ミュージアムの中。ガラス越しでもよく写っているのが流石プラナー。


小雨の中で見る萬翠荘はこれはこれで風情があってよかった。というより、少し湿度があるぐらいの方が映えるのではないか?とも思った。だが次回は是非とも晴れた空の下で見てみたい。

内部は自由に拝観出来て、写真も基本的に自由に撮っていいとのこと。部屋の一部はフォトスポットを作っているスペースもあり、友達連れの女性グループが利用していた。
建物内はガラスやレースのカーテン越しに差し込む光が美しく、写真を撮るのがとても楽しい場所だった。フィルムでどう写るかを考えながらブライトフレームで切り取っていく。



萬翠荘を楽しんだ後はミュージアムへ。
先ほどまでの海外の建築様式を取り入れたレトロな建物とは打って変わって、コンクリートを使ったモダンな安藤忠雄建築の中へ。

司馬遼太郎による小説「坂の上の雲」の世界観や、主人公である秋山兄弟と正岡子規に関連する展示がされているミュージアムなのだが、恥ずかしながら小説は読んでおらず単純に建築を楽しむのが目的であった。少しばかり邪道かもしれないが、館内は展示品以外撮影可とのことだったので存分に写真撮影を楽しませて頂いた。安藤忠雄建築の好きなところは、幾何学的な形の建築に自然光などを取り入れ「人間と自然との調和」を感じられるところだ。

露出計は以前までセコニックのスタジオデラックスを使っていたが壊れてしまったので、現在はTTartisanの外付けメーターを使用している。外付けのメーターなら反射光式なので時間がかからないのと、荷物の量も減るのでいいと思って新調した。ただ館内はコンクリの壁や床に光がうっすらと反射しているし窓と影の部分では露出もかなり違うので、結局メーターを外して光が当たっている壁、影になっている所、窓に向けて、とそれぞれに近づけて露出を計り後は考えながら撮るという方式だった。こういった時の為にもやはりちゃんとした露出系は欲しい。
幸い大外しすることもなく、現像を終えてベタを見て嬉しくなったのを覚えている。ここでのネガはプリントがとても楽しかった。



ミュージアムを出て、少し考えたが雨がこれから強くなりそうなのもあったので早めに切り上げることに。
松山市駅まで戻って伊予鉄に乗り込む。初日の電車の中で「海沿いの駅で降りて歩いたら綺麗だろうなぁ」と思っていたので、高浜駅まで行かずに一つ手前の梅津寺で降りる。幸いまだ雨は強くなっていないが風がかなり吹いている。嵐の前のような状態だ。



雨が降るどんよりとした天気の中、遠くに広がる海を見ながら歩く。
遠くの方には航行するフェリーが見える。
歩いてフェリーターミナルまで向かう道中、ほとんど人に出会わなかった。全く知らない道をただ一人歩く時間は寂しくも写真と向き合えるいい時間だった。



ターミナルに到着し、フェリーの到着まで少しばかり待つ。
広島松山間のフェリーは時間帯によって船の種類が変わるのだが、この時間はシーパセオという船内設備も整った綺麗な船だった。宇品港でよく見かける船で、いつか乗ってみたいなと思っていた船だった。
この頃には雨も風もかなり強くなっていたが、幸い欠航にはならず無事に帰れる。



船内に無事乗り込み、窓際の席に座る。シーパセオには進行方向に向いた一般的な席だけではなく、さまざまな席が用意されていて、私は窓に向かって景色を楽しむことが出来る席を選んだ。

大荒れの海を眺めながら疲れた身体を席に預ける。
久しぶりの旅は心を開放出来て楽しい旅だった。
日々何かに追われるように生活はしたくないと思うものの、生きる為には仕事をしないといけないし、そうしていると写真の事だったり自分の事だったりの時間が限られてしまい、結果いろいろと追われるような感覚になってしまう。全てを楽しむことが出来たらいいのだが、それが出来ないのは私が未熟だからかそれとも環境のせいだろうか。



ライカと旅に出るのは今回が初めてだった。ライカはさりげなく私のそばにいて、しかし撮りたいと思った時に確実な仕事をしてくれる。そしてファインダーを除いてもフレームが浮かび上がっているだけで、現実の世界と地続きの写真を撮らせてくれる。それらのお陰で「旅とは知らない土地を見て歩いて感じるのが目的」だということを思い出させてくれた。
そしてフィルムの場合はデジタルの時のように際限なく撮れるわけではないのだが、実際旅をしている中では枚数を気にするなく撮っていたことが嬉しかった。コストではなくちゃんと写真優先の脳に切り替わってくれた自分を褒めてあげたい。



フィルムカウンターに目をやると数字は36を示している。経験上もう一枚は撮れるだろうと思い、船外に出てみる。フィルムはまだ一本残っているが、雨風にさらされたのもあり帰ってメンテナンスをする為にもこれをラストにする。旅の最後の一枚だ。

波も風も雨も全てが大荒れなのでデッキはかなり酷い状態で、雨に濡れながら何とか遠くの海を見てみる。
暗い海の向こうにぽつんと小島が見えるのと、さらに向こうには霧がかって山が見える。快晴だったらいいのに、みたいな考えはなかった。ただただこの目の前の光景を受け入れる。
目の前は荒れ、遠くは霞んでいるが、それでも向こうに何かがあるというのはわかる。良い景色じゃないか。まるで人生みたい。


船内に戻って一息つき、私はライカのフィルムを巻き戻す。
ノブをくるくると回しながら、今度はどこにいこう、今年はもっと沢山いろんなところに行けたらいいなと考えていた。



camera : LEICA M2
lens : Carl Zeiss Planar 50mm F2 ZM
film : MARIX 400
paper : Ilford MGRC

モノクロ写真は自家現像、暗室プリントしたものをスキャンしてデータ化。
カラー写真はiPhone 15 ProでRAW撮影し、Lightroomで現像。

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