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実現していない焼肉 〜 会社とは何か 〜

今朝は近所のパン屋で惣菜パンを買ってきて、コーヒーを淹れて朝食を摂った。パン屋には近所の飲み友達が勤めているのだが、彼女は午後からの出勤のはずなので今の時間帯にはいない。よく一緒になる飲み屋のマスターと、彼女と僕との3人でちょっと前に焼肉を食べに行く約束をしていたのだが、そのパン屋で社長から「コロナ感染しないように日頃の行動を見直して欲しい」というようなことが全社的に言われたらしく、結局その焼肉は実現していない。

その話を聞いて、最初は「まあ、そういうものか」と漠然と思ったのだが、ふと「そもそも従業員が会社の外でどういう生活を送るかということにまで会社が口を出すことってできるものなのだろうか」との思いが去来したので、そのイメージを抽象化しようとしてこの文章を書き始めた。すなわち、原則的には会社と従業員との関係というのは経済的な結合以外のナニモノでもないはずで、そんな日々の生活態度にまで干渉するのはいくらなんでもパターナリスティック(「過保護的」「父権的」ぐらいの意味)すぎるんじゃないかと思っている。ここでは、その背景を述べる。

一つには、最近巷でよく言われている「行政当局が飲食店に対して業務停止を命令すると保証が必要になるので、それを回避するためにもあくまでも要請という形を取っている」という説である。これも最初はそういうものかとぼんやり思ったものだったが、よく考えてみるとこれっていったいどういう法理に基づいているのだろうか。行政は国民の福祉のために必要であるなら、そういう執行をする権限を当然に有していると考えられるし、そのような行政措置の全てに対して補償が必要なはずはない。オプジーボ(有名な肺癌の抗癌剤ですね)の薬価を30%カットするときに、行政が小野薬品の売上減の部分を保証する必要があるかどうかなどということは議論の対象にすらならないだろう。だから、飲食店が当局から業務停止命令を受けるということが、直ちに保証を意味するはずもない。にもかかわらず、飲食店側は保証は当たり前だという認識を持っている、とここまではまあ良い。
問題は、そうでありながらも、一方で飲食店は従業員に対しては無条件で業務時間外の生活のあり方に介入できることも当然だと思っていることである。雇用契約に記載のない要求を従業員に対して追加するのであれば、その対価についてもまた交渉可能なはずだが、そんなことは考えたこともないのであろう。つまり、会社と従業員とは、会社が指導を与え、従業員がそれを畏れ頂くという構図になってしまっているのである。従業員が感染症に罹って閉店するリスクが大きいと考えるのであれば、飲食店は休業することを先に考えるべきだが、そこには飲食店が業績と比較して従業員の人権を軽視している、または軽視しても構わない雰囲気が醸成されていると言われても仕方があるまい。

一方で、また別の女性は会社から一定期間の休業(厳密にいうと、飲食店の「休業」とは意味が違いますね、ここでは会社が従業員に対して業務をしないで欲しいと要請することです)を言い渡されていて、自宅で待機している。会社からは休業補償として、給与の80%が支給されることになっている、ということである。これも最初はピンと来なかったのであるが、ここでは会社は従業員が業務に就いて社会的貢献をする機会と、それから仕事を通じて自らを成長させる機会とを奪っているし、もちろん事実上20%の賃金カットを、従業員の意思とは無関係に、ほとんど手前勝手に行なっている。もちろん、この場合は定款だとか何だとか、ルールは整備されていて、従業員はそれに従わざるを得ないのであろうから飲食店の場合とは条件が異なるのかもしれない。会社は異常事態であることを錦の御旗にして「みんな苦しい。支え合おう」的な雰囲気を醸しているのかもしれないが、この状況下でもすべての会社の業績が低迷しているわけではない(Netflixは過去最高益だそうです)。

翻って見ると、僕の会社ではパート従業員の方から「コロナが怖くて出社したくない」ということを言われ、それも当然の懸念だと思ってしばらくは出社しなくてもいいし、在宅でできることをやってもらえれば構わないし、出社するとしても車通勤で駐車場代は会社が持つということでいいよ、などと言っている。彼女がしていた、会社にいないとできない業務は僕がすることになるが、会社なんてそんなものだと思っているから気にもならない。ちなみにうちの会社は昨期は過去最高益、今期も今のところは絶好調である。まあ、会社にしてからまだ3期しか回していないので当然だし、別に僕は自分がいい経営者だとかいうつもりもないのであるが(エンジニアとしての腕は悪くないと思うが、経営者としては良くて三流かな)、一緒に働いてくれている人の普段の生活態度になんか口を出せるはずもない。ゴルフに行きたければ自分の責任でゴルフに行けばいいし、焼肉に行きたければ自分の責任で焼肉に行けばいいと思っている。もちろん、コロナを会社に持ち込んでもらうのは困るが、それはあくまでも個人的なレベルで、である(一緒に働く人が咳をしていたらコロナじゃなくたって「帰ったほうがいいんじゃない」とは言うものでしょう)。

結局何が言いたいかと言えば、会社が雰囲気の圧の力を借りて、タダで従業員を思い通りにしようと思うのは間違っているということなのである。パン屋の彼女が「焼肉食べても大丈夫」と大人の判断をしたのであれば、それは尊重すべきだし、その結果コロナになっても仕方ないことだし、それで飲食店の店舗がクラスターになっても、そもそも飲食店なんて千客万来、どんなにやべえ奴でも入ってきたら対応しなければならないビジネスなのである。それが嫌なら他のもっとリスクが低いビジネスを選ぶべきだ。それがどうしても嫌なら、従業員が納得するような保証をするべきである。少なくとも自分が国に対して保証を要求するのであれば、従業員にもそれを与えるべきだと言っている。例えばポケットwifiを借りてNetflixをいいプランで見れるくらいの保証はしても、バチは当たらないだろう。

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