グローバル・ジェンダー・ギャップ指数の算出方法(の一部)は正しくない?

・調査のきっかけ
12月17日に発表された世界経済フォーラム(WEF)発表の「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」で日本が121位になったことに対し、Twitter上で保守派の方「教育分野のランクが低すぎるので問い合わせたい」みたいなコメントを見たこと。
実際のところどうなのか、と原典に当たってみようと思ったのがきっかけ。
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5df74276e4b047e8889fdd98

・そもそも「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数(Global Gender Gap Index)」とは?
経済・教育・健康・政治の4分野における「男女格差」を指数化したもの。

・教育を含む各分野の、日本の評価は実際どうなのか?
経済:115位、教育:91位、健康:40位、政治:144位(153ヶ国中)。
教育は識字率、初等教育(primary education)参加率、中等教育(secondary education)参加率、第3期の教育参加率(tertiary education:簡単に言うと大学水準)の4つで、それぞれ1位、1位、128位、108位。
指数上では、確かに教育の評価は低いが、中身を見ると極端な差があった。なぜか? さらに調べてみた。
ちなみに参加率は「enrolment」となっており、進学率と同義と思われる。

・実際のスコアはどうなのか?
World Economic Forumのレポート(以下のリンクのP.201)によると、中等教育は0.953、第3期の教育は0.952。
それぞれの教育レベルにおける「女性の参加率/男性の参加率」の割合であるようだ。

しかしながら、上記式の分母・分子である、日本の「Enrolment in secondary education, %」(中等教育への参加率)は女性48.8%、男性51.2%となっている。高校進学率はこんなに低くないはず。

一方、米国の「Enrolment in secondary education, %」は女性93.0%に対し男性91.9%。フランスは女性95.3%、94%。

他の国はどうか・・・と調べていくうちに、異常値を発見した。ドイツである。ドイツの「Enrolment in secondary education, %」は女性46.7%、男性53.3%。ちなみにドイツの「Enrolment in tertiary education, %」は女性70.7%、男性69.8%なので、中等教育より高等教育の方が20%も参加率が高いのは明らかにおかしい。

恐らくであるが、日本とドイツについては、本来は女性と男性それぞれの「参加率」で計算すべきところ、生徒数の男女別「構成比」で計算していると思われる。日本もドイツも「Enrolment in secondary education, %」の男女合計がいずれも100%になっており、偶然にしては可能性が低すぎるため。
http://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2020.pdf

・このスコアの元データは何か?
上記のレポート(P.46)を見ると、「UNESCO, UIS Education Statistics Data portal, 2017 or most recent available」とある。なのでUNESCOのデータが原典。
UNESCOは正式には「国連教育科学文化機関」と言い、世界遺産の指定を行っているのもここ。

・UNESCOの元データはどうなっているのか?
以下のUNESCOウェブサイト内にある「UIS.Stat」が上記のソースと見られる。
Education→Participation→Percentage of enrolment→Percentage of female enrolment by level of educationと辿り、「Percentage of students in secondary education who are female (%)」を見てみると、2016年時点で48.83%なのでWEFのレポートの数値と一致する。
本来あるべきEnrolment rateは探したがデータベース上からは見つけられず。
http://data.uis.unesco.org/

・国内の進学率は実際、どうなっているのか?
文部科学省の「学校基本調査」を見ると、平成28年(2016年)の高等学校等への進学率は男子98.5%、女子99.0%、令和元年(2019年)でも男子98.7%、女子99.0%と女子の方が進学率が高い。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00400001&tstat=000001011528&cycle=0&tclass1=000001021812

ちなみに、男女別人口については総務省統計局の「人口推計(2018年(平成30年)10月1日現在)」が参考になるが、18歳時点で男性613千人、女性577 千人で男女比は106.1となっている。その前後で見ると、105.2~106.2の間に収まっている模様。

進学率(最大と最小の中間値である105.7と仮定)をと人口の男女比を基に推計すると、中等教育の男女比は大体105.2(男子105人に対し女子100に)となり、WEF式の比率で言うと95.1になるので大体計算が合っている(そもそも誤っているデータであるが)。
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2018np/index.html

・結論は?
WEFのレポートの数値が高確度で誤っているといえる。
また、同レポートの日本の数値を見ると、「Enrolment in tertiary education, %」はFemale・Maleとも原数字が「-」にも拘わらず比率が「0.952(108位)」となっており、謎である。学校基本調査では、「大学(学部)・短期大学(本科)への進学率 (過年度高卒者等を含む)」は男性57.6
%、女性58.7%なので、比率は1を超えており、本来は1位となるべき。

一方、他の数字についてはさほど違和感があるものがないので、総合順位には大きな影響を与えない可能性もありそう。

そもそも指数の構成要素がこれで良いか、という議論はありそうだが、日本におけるジェンダーギャップが大きいこと自体に異論の余地はないだろう。

また、いかにも公的っぽい(WEF)機関が出している指標を鵜呑みにすることは良くない。違和感を感じたら、原典に当たることは(時間が許す限りにおいて)必要だと改めて思った。

また、最初のTwitterのコメントに戻ると、「とりあえず聞く」ではなく、「自ら調べる」という姿勢に違和感を持ったのを思い出した。

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