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[随想詩] 言の葉のさざ波立って風涼し

そうです、これはある類型の、
絶対的に言葉には写しえない、
この身のうちにまさに今この瞬間やどっている、
不可思議奇妙な気分についての、

そもそも言葉というものは、
この世界で生じる現象の、
不完全な写像(マッピング)にしかすぎないのですから、
いくら地図をよく読み解いて、
そこに描かれているすべてを頭に入れて、
そのすべての相関関係にまで思いを至らしめたとしても、

所詮地図は地図でしかなく、
現地に行って初めて分かる、
空気がたたえる匂い、
鼓膜を叩くざわめき、
乾いた疾風が投げつける砂粒や暑い陽射しが肌に当たる感触のことは、
片手でタブレットを握りしめて、
親指で画面をなぞっているだけでは、
決して知りようのないことですから、
未完の描写が果てしなく、
収束していく点列としていつまでも、
フラクタルの踊りを舞い続けるわけなのです。

つまりあなたはおぼろげな、
月も星もない闇夜の中で、
つかみどころもなく、道しるべも知らず、
ぬばたまの虚空だけが広り続ける時間線の奔流に、
漂って流されて呆然としたまま、
誰とも分からぬ阿呆が連ねる言の葉の切れ端に心を任せて、
いや、任せることができればそれもいいのだけれど、
あまりに取り留めもない想念の、不定形の節々のみがはらはらと、
結局は堂々巡りをしているだけのことで、
どこか意味のある場所に連れていってくれるようには思えないものだから、
ああ、もう気が散り始めてしまった、元から危ういつながりしかそこにはなくて切れ切れの、
心象の連続は木っ端微塵に砕け散って、

それでぼくは思い出したのです、
まだ物心もつかぬ頃に夢見た、
曖昧模糊の幻の欠けらの記憶こそが力強く、
色褪せてほこりくさい優しさの残影を放つように、
ただ全身から余分な力を抜くことだけを願って、
世界と相対する不断の応力が生まれて以来続くからには、
背負った覚えもない肩の荷に決して押し潰されないように細心の注意を払って、
払いきれない人生のツケのことなどもう忘れてしまうことにして、
両の目に浮かぶ微かな涙の兆しと、
腹の底から抜け切ってしまった生の充実という観念と戯れながら、
大丈夫、まぶたを閉じて目の裏に浮かぶ、
光の模様に注意力の焦点を合わすことができれば、
そして甘美な眠りの静かな大海原へと、
一人小舟で漕ぎ出してしまえば、
うっすらと桃色の装いを着飾る灰色の脳髄の中で、
精妙自然なガラクタ回収系という名の小人の群れが、
ぼくたちの悩みも苦しみもきれいさっぱりと洗い流して、
やがて目醒めが訪う頃には、
きみがあのとき確かに感じたに違いない、哀しみに縁取られてくっきりと浮かび上がった歓びの甘い手触りも、
すっかりゼロとイチの冷たい情報に符号化されて、
宇宙の片隅で灯りを点す小さな端末上に、黒と白の綾なす文様として表現されるばかりに準備されて、
誰かがそこに目を落としハートマークをぽっちり押していてくれるときを、
ひっそりと待っていてくれるはずなのですから。

#随想詩 #エッセイ #コラム #茫洋流浪

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