【ショート・ショート】ゲームチェンジャー
ダニエル・オコナーは、王立研究所1階の廊下を歩いていた。すると、前方から同期のルカ・モレッティが歩いてくるのを見つけ、声をかけた。
「ルカ」
「おー。ダニエル。久しぶりだな」
「ああ、ルカは5階、俺は3階でそんなに離れてないんだけどな」
「二人とも研究が全然違うからな。ダニエルは、紙とペンがあれば研究ができるけど、俺は実験がメインだから接点がない」
「そうだ。ルカ。ちょっと聞いていいか」
ダニエルが、周りを気にしながら小声で聞いてきた。
「なんだ?」
「対エニアル公国の切り札として、『魔術』を使える人間を見つけたと聞いたが、それ本当か?」
「え・・・。うん。地獄耳だな。どこで聞いたんだよまったく・・・」
ルカの表情が少し曇った。
「ということは・・・」
「ああ、そうだ。そういう人間を複数見つけたのは事実だ」
「理論的には可能だと考えていたが、実際にいるとは・・・。エニアル軍をこれで壊滅することができるじゃないか」
「ああ。だから、見つけたときは、うちの兵器開発セクションも大騒ぎだったんだが・・・」
「何か問題でもあるのか?理論脳科学的には下手すると世界を牛耳ることができるくらいの破壊力を持つと考えられるんだが」
「俺も、ダニエルの所の論文は読んだよ。ただな・・・」
「なんだ、魔術といっても、威力が大したことないのか?」
「いや、今回見つけた人たちの魔術の力はかなりのものだ」
「どういう魔術なんだ?」
「雷撃系かな」
「おお!それだと、敵国の電子兵器を麻痺させられるし、兵隊も一撃で仕留められるじゃないか」
「まあな。一人の魔術を使えば、1個師団を一瞬で壊滅させることができる。エニアルとの実戦でその破壊力は確認したんだ」
「ルカ!それはすごいな」
「でも、もう、魔術を使わないことになった」
「え?なんで?」
「魔術を発動するために詠唱するだろ」
「まあ、あれで威力を飛躍的に高められるからな」
「詠唱のほかにも、ポーズも取るだろ、それっぽい」
「ああ。まあな。それも理論的には理由がある」
「だめだよ。目立つから」
「それなら、隠れてやれば?」
「ダメなんだよ。敵の面前でやらないと。まったく威力がでない」
「歩兵とかで守ってやったらいいじゃないか」
「実はそれをやったんだ。最初は成功したが、2回目からは詠唱が終わるまでに歩兵ごと機関銃でやられた。結局、魔術を使える人たちはあっという間に戦死したよ」
(終わり)
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