【ショート・ショート】サイコ
私の趣味は油絵を描くことだ。
私だけしかいない家で毎日筆を執る。
最近は人を描くことが多い。性別は問わない。
人の体を構成する直線や曲線の美しさは神々しいと言っていい。
今日も私は、目の前のモデルの美しさを2次元のキャンバスで表現していた。苦労したが、もうすぐ完成だ。
私は、筆を置き椅子から立ち上がる。そして、力なく横たわっているモデルに近づき、私の人さし指でモデルの口の端をそっと拭った。
私は、キャンバスの前に戻り、モデルの口を拭った人差し指でキャンバスをこすった。
キャンパスに描かれた白い肉体が鮮やかな赤で彩られる。私が描いた肉体に命が宿った。
命がキャンバスに宿るこの瞬間。私には、これ以上の喜びはない。
その時、私の家に警官達がドアを蹴破って入ってきた。横たわるモデルの息を確認している。
「手を上げろ。このサイコ野郎!」
すべての警官が私に銃を向けた。
「3月15日は、サイコの日らしいが、私はいたってサイコではない。私はアーティスト。モデルの命をキャンバスに移しただけだ」
私は、油絵のナイフを手に取ろうとした。
乾いた音がした。そこで、私の意識はなくなった。
(終わり)
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