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トップガンマーヴェリックの謎を解け‼ #12

3.3 軍の状況とアイスマンの立場(アイスマンの章)


 3.2ではマーベリック、アイスマンそれからルースター個人レベルのミッションとの関わりを考察しましたが、さらに視野を広げてアイスマンが海軍司令官としてミッションをどのように考えていたのかを考察することができないでしょうか? これは意外にも当のアイスマンが亡くなった直後に、ヒントとなるシーンがあるのです。

≪アイスの死≫

トップガンのエースよ永遠に

 訓練中のフェニックス機へのバードストライクで1機喪失、フェニックスとボブはトップガン’86の再現とはならず無事脱出することが出来、全国のボブファンはホッとしたでしょうが、それがきっかけでマーベリックに対して初めてルースターが真正面から鬱屈した思いをぶつけました。

 まさのそのタイミングでのアイスの死。アーリントン墓地(これは何回目かの鑑賞の時、後ろに座っていた老齢の御夫人が隣のお孫さんに、『アーリントン墓地、グランマここ行ったのよ』と映画の最中にアピっているのを聞いて知りました。お孫さん『…』)
のシーンを経て、サイクロンからマーベリックへの、『教官交代、永久に飛行禁止』の言い渡し。

 いくら訓練の成果が確認できないといっても、作戦準備進行中に、はい教官失格、作戦パラメター変更!ということが中将の一存で出来るのでしょうか?ナゾです。

 サイクロンのその後の言動を見ても決して悪意でそんなことをするとは思えない。(サイクロンは良い奴です。)

 また劇中一番カッケーシーンである、マーベリックのF-18無断使用での2分15秒への挑戦成功の後、サイクロンが難しい立場に立たさられたというんですね。

 2分15秒アタック成功の興奮の余韻でぼんやりと見てしまいなかなか気づかなかったのですが、
自分の立てた作戦である“4分、420ノット、高高度からの爆撃作戦”だとミッションの成功もパイロットの安全も怪しい(字幕版では少し違って、パイロットを危険に晒してミッションを遂行する)が、サイクロン自身は安泰で、
成功するおそらく唯一の手段であるとサイクロン自身も認めた、“マーベリックを編隊長にしての”2分30秒 660ノット、100フィートの渓谷抜け”には自分のキャリアを賭けるというんですね。これまたナゾです。

 4分作戦が自分の信念だったのなら別に信念を曲げるのが悔しいだけでキャリアを賭ける必要はないはず、またマーベリックを編隊長とすることで2分30秒作戦の成功確率が上がるのであれば、マーベリックを編隊長にすること自体にはキャリアを賭けるほどのリスクはないと思います。

 要は作戦として4分を取るべきか、2分30秒を取るべきか?

 これらのナゾを説明できる仮説を考えると、おそらく最初から国防省は4分作成を計画していたんだという推定が一番しっくりきます。それをアイスマンが横やりを入れて、マーベリックにやらせろ、ちなみにルースターもチームに入れとけ。と国防省と戦ったにちがいありません。


≪ダークスターはダークホース≫

コイツもまた逝った

 国防省または海軍とアイスマンの考え方の食い違い、それがサイクロンとマーベリックのミッションパラメータの違いに投影されており、マーベリックが決めたパラメータでのミッション成否を決めるのはパイロット(特にキーパーソンははルースター)という図式を導き出したわけですが、冒頭の一見映画の導入部とも思われるダークスターのエビソードが実はこの物語の世界観のためには重要だったのです。

 ダークスターによるマッハ10への挑戦は、不可能への挑戦、マッハ10と10Gを重ね合わせたこの映画の象徴的オープニングであり、さらには3.2の≪ルースターの真価≫でも軽く触れたように、6万フィートを軽く超える超高高度をマッハ10で飛行中に爆発しても死なない(ケイン少将の言葉を借りると、『無謀なことばかりしても死なない』)ことを先に見せておいて、“マーベリックは最後にSAMに撃墜され、パラシュート開かずに墜落しても死にませんけど、細かいこと気にしないでね。それがマーベリックなんです。”というラストシーンへの準備にもなっている。
(たしかにトップガン’86のマーベリックは無茶はするけど、そこまで不死身のキャラではなかった。)

 しかし想像を更に広げることもできます。

 実はダークスターのエピソードはケイン少将単独の考えではなく、アメリカ海軍による考え(あるいは創意としての方向性)ではないかと思います。

 思い出してみてください、ダークスターのエピソードから既にナゾというか“謎解きの鍵”が仕掛けられています。

 マッハ10が出れば、予算は無人機計画に取られないという話なのに、マーベリックは、コックピットで、「これが最後だ!」とつぶやいている。そしてマッハ10が出れば十分、むしろそれ以上は出すなとさんざん釘をさされたにもかかわらず、自分の命を危険に晒してまでマッハ10を越える速度に挑戦し、挙句ダークスターを壊しています。

 要するにマッハ10出ていないのでダークスタープロジェクトは中止というのは、詭弁であって、無人化が優先というのが軍の方針なので、結局なんかかんだ言い掛かりをつけられてプロジェクトはキャンセルされることが、マーベリックには分かっていたのだと思います。

 おそらく軍の狙いは、パイロット育成費用の削減、それとそもそも志願者が不足しているという状況があるのでしょう。いずれドローンレンジャーが幅を利かせる未来がやっきて、“機械”ができる範囲は増えるのでしょうが、ケイン少将の考えとは異なり、パイロットがいらなくなるわけではなく、“人”にはますます高度なことが要求されるようになるのではないでしょうか。

 考えてみると、トップガン’86でもトップガンマーヴェリックでも空中戦はしていますが“戦争”はしていません。
ミサイルロックで威嚇したり、背面飛行で国際交流をしたり(笑)、ならず者パイロットになりすまして笑顔で手を振ったりとパイロットは大活躍です。

 無人戦闘機が敵機をレーダーで捕捉するや否やミサイルをぶっぱなしたり、最後には人のいない無人の作戦室でAIが作戦を指揮する未来は考えただけでゾッとしますよね。

 残念ながらケイン少将は本当にパイロットがいらなくなると信じて仕事にまい進している(もしくは仕事にまい進するために、自分に信じさせている?)ようですが、こういう人が沢山いるので、軍全体でパイロットはいらないという意見が支配的になっているのがトップガンマーヴェリックの中での軍の状況なのではないでしょうか?

 そんな中で、マッハ10が出ていないという“言い掛かり“をつけてきたのはむしろ幸い、”言い掛かり“には”言い逃れ“とばかりに、マーベリックは最後のフライトになることを覚悟のうえ、ダークスターを飛ばすことができました。

 そう考えるとマーベリックがマッハ10を達成するだけではなく、無茶をしてマッハ10.4(壊れる直前に一瞬記録)まで加速した理由は、単に無謀な性格による記録への挑戦ではなさそうです。

 マッハ10を記録するだけであれば、それは設計通りで機械(ダークスター)のやったこと。限界を超えるのはいつも人間の力であることを示すことで、パイロットの必要性を訴えようと離陸前から決意し、“その顔は好きじゃない”と言われる表情をしていたのだと思います。

≪軍の状況とアイスのWork≫

司令官殿、いつもお世話になっております。

 おそらくアイスマンはこういう軍の流れが止められないのを知りつつも本当に有能なパイロットを残そうと考えており、その有能なパイロットがマーベリックだけでは次世代に繋がらないので、次世代のキーパーソンとして自分に似たスタイルのルースターに目を付けたんだと思います。

 そして頑なに教範を守り、自分自身で過去の呪縛から解放される術をもたないルースターに対して、マーベリックが真にパイロットの腕を必要とする(パイロット軽視の軍では立てる事が出来ないような)作戦を考え、ルースターに教えて、そして最後はマーベリックがルースターを信じて任せることを筋書としていたに違いありません。

それがThen teach him.であり、
NAVY needs MAVERICK. The kids needs MAVERIKC. と言った意図なのだと思います。

3.1で最初に挙げた謎解きの主要テーマの一つ目も、これで解けたと思います。

  本章の最後に本章の主役であるアイスマンについてあと一言。アイスマンはトップガン’86での印象から大きく変わったキャラクターであると思っていたのですが、この考察を通してのミッションに関する謎解きと同時に、アイスマンはアイスマンのままで、本質は変わっていないという発見が出来たことで一人ニヤリとしています。

 というのもアイスマンは自分の死に際までマーベリックに対して温かい目を向け、ルースターとの仲を修復させようとしてますが、これは私情によるものだけではなく、むしろ軍にとって必要だから行っているというほうが大きいのではないでしょうか。

 そう言う意味ではトップガン’86の最後のシーンからマーベリックとの関係は変わっていない。
You are still dangerous. You can be my WING MAN anytime. 
You can be mine.
(『お前はまだ危険だ、だが俺のウイングマンにしてやる』『いや俺がお前をウイングマンにするんだよ』)が表すように、マーベリックとアイスマンの関係はいくら年月を重ねても本質は変わらず、単なる友情ではなくて、相手の力量を認めたうえで自分に有益だからこそ、友好関係が続き、そして深まっていったに違いありません。

They are so dangerous!


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