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どこにもないもの

「どこにでもいるって思ってるんでしょ、私のこと、別れよ」
付き合って5年目の春、彼女からそう切り出された
「分かったよ、今までありがとうね。大好きだったよ」
僕の言葉を受けた彼女の表情は呆れたようなどこか悲しいような、そんな顔をしていた。

彼女と僕は大学1年生の時、共通の友人からの紹介で知り合った。彼女と僕と友人でご飯を食べに行き、そこで意気投合した。こんなに話が合う人は初めてだと思った。
そこから数回、今度は2人だけでご飯を食べたり、映画を見に行ったりした。
知り合って5回目のデートで彼女から告白され、付き合った。
彼女とはよく色んなところに行った。
大衆居酒屋、映画館、公園、テーマパークや遊園地。
付き合って3年目の春には同棲も始めた。
2人とも就活で忙しかったけど、家に帰れば彼女がいて、2人でご飯を食べて、一緒に寝る。
当たり前の日々だった。彼女がここにいるのが日常になっていた。
彼女はよく僕に文面でも、対面でもこう聞いた
「私のこと好き?私は好きだよ」
「うん、ありがとう」決まって僕の返事はこうだった。
彼女は毎回不満そうな顔をしていたけど、それでも笑顔でいてくれたから、僕は安心しきっていたんだろう。

「なんで今更、好きだったよって言うの?遅いよ」彼女は言った。
僕は彼女が横にいることが当たり前になってしまっていたんだろう。

「どこにもないものなんてどこにもなくて、けどどこにでもあるものがどこにもないものになる瞬間が今」どこかで聴いた歌のフレーズを思い出す。
「ただそばにいてとか言えなくて、いつもその理由を考えてしまう」




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